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改憲の中身こそ議論すべき(衆議院議員 辻元清美)

季刊『社会運動』2017年1月【425号】特集:STOP THE WAR! 護憲派による「新九条」論争

改憲派・護憲派のレッテル貼りはやめよう

 

―九条2項には手を付けず、緊急事態条項の加憲を進めるのではないかという分析もありますが、どのように見ていますか。

 中谷元さんが防衛大臣だった時に、私は国会でこの問題を取り上げました。多くの人が想像できる一番の緊急事態は、東日本大震災です。原発事故が重なり、人類史上一番過酷な災害でした。あの時、政府は、自衛隊法や災害対策基本法、原子力関係の法律などに則って対応しました。そこで、「自衛隊法や災害対策基本法を変えなくては自衛隊が十分動けなかった所はありますか」と質問をしたら、「ありません」と中谷さんは答弁しています。

 これはもう一つの論点です。法律で対応できるものは法律で対応する。それでは対応できないことがあれば憲法を改正するというのがルールです。法律改正もしていないのに、緊急事態条項の憲法改正がなぜ必要なのか。そう考えると自民党が目論んでいるのは災害対応ではない。自民党の憲法改正草案にあるように、緊急事態宣言を発した時には、内閣は立法府の承認を得なくても法律を制定できる。ドイツのワイマール憲法下でナチスが独裁を敷いた条項と同じ権限を手に入れたいとしか思えません。

 また、衆議院が解散した後、天変地異や戦争などが起こって選挙ができず、国会が開けない場合の対応も憲法に盛り込む必要があると言われていますが、それは日本国憲法制定時に議論されています。日本は二院制ですから、衆議院が解散して参議院の任期が来ていても、参議院の半分の議員には任期が残っているので、そこで緊急の会議を招集して対応を決めるという仕組みはすでにあります。ですから、緊急事態条項の必要性はどこにも見つかりません。

 

―冷静に考えればその通りだと思いますが、新聞等の世論調査では、憲法を変えた方がよいという人が5割を超えたと伝えられています。

 これから変わると思います。設問の仕方が悪いということに新聞社もやっと気づいてきたんじゃないでしょうか。憲法のどこを改正するのかが大事なので、「改正した方がいいですか、しない方がいいですか」という設問は成り立たないのです。「押し付け憲法論」の下での思考停止のまま、戦後71年も経っているのに、新聞社はまだそんな質問をしている。どこをどうしたらいいと思うか、と具体的に質問しなくては。

 ただし、憲法改正の動きが来るときは一挙に来るかもしれない。それでもチャンスは国民が持っているのです。その前に必ず選挙がありますから。

 民進党は護憲派でも改憲派でもありません。変える所があれば変えればいいというのが、一番ノーマルなスタンスだと思います。日本の問題の一つは、有権者、市民の政治的成熟度がいまだ足りないこともしれません。政治は「悪さ比べ」です。有権者は、勇気を持って、より悪くない方を選び続けるしかない。それが政治です。そうしたらいつか変わると思います。自民党長期政権を作ってきたことを野党のせいにするばかりでなく、自分たち有権者はどうかと考えないと、「しっかりした野党がいない」と言っている限りは、何も変わりません。

 2016年7月の参議院選挙の時、シールズ(SEALDS 自由と民主主義のための学生緊急行動)の人たちは「僕たちは今の安倍政権よりマシにしたいから」と、野党共闘の候補者が改憲派でも徹底的に応援しました。彼らは、自民党に3分の2議席を取らせたくないから活動したのです。一方、シールズと一緒に活動するうちに、改憲派だったその候補者の言うことも変わっていきました。そういうものですよ、お互いに。

あの人は改憲派だから護憲派だからというレッテル貼りは止めて、何を変えたいか、何を変えたくないか、そういう中身の議論をする方が建設的だと思います。(構成・編集部)

(P.83~P.85記事から抜粋)

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