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1.原発は破綻した技術である(後藤政志 工学博士)

季刊『社会運動』2018年1月【429号】特集:あれから7年、福島の現実

 

石棺の可能性も残しておくべき

 

─福島第一原発の廃炉は、東電と政府の計画通り30〜40年で本当に終わるのでしょうか。

 

 廃炉の状況は、ある一定のところまで進みましたが、燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しからは、はっきり言ってあまり進んでいません。ロボットを投入して調査をしていますが、内部は障害物や穴、あるいは高い放射線量でロボットが動けなくなることもあります。そのため、少しずつ進みながら状況を把握して、その環境に応じたロボットを設計することを繰り返して、作業を進めています。最近になってようやく溶融物の一部が見えてきた段階なので、現状を把握するだけでもう数年かかります。つまり、作業を進めようにも、どこに何がどのくらい、どのような状態であるかを調べている段階です。当初、東京電力は17年の夏までには燃料取り出しの計画を立てると言っていましたが、それは不可能だということがわかりました。スリーマイル島原発事故のように、圧力容器の中に燃料があればまだいいのですが、福島第一原発はその外に出てしまっているので、はるかに難しくなります。通常の廃炉ならば、運転を終えた健全なプラントから燃料を取り出して解体していくと、30年でできるという工程を組めます。しかし、福島第一原発は事故炉ですから、廃炉より前に、事故の収束をしなければならない状態が続いているのです。ある意味ではまだ廃炉のスタート地点にも立てていない状況です。

 廃炉作業に入ったとしても、気をつけなければならないのは、高濃度に汚染されたものを切り刻んでいくので、人を被ばくさせる作業だという点です。この作業期間を早めれば早めるほど、被ばく量が多くなります。そのため、私も委員を務めている原子力市民委員会(注2)では「焦る必要はない、100年かければいい」という意見も出てきています。チェルノブイリ原発では事故炉を「石棺」と呼ばれるコンクリートの建造物に覆って閉じ込めていますので、福島第一原発の溶融物取り出しは世界初の未知な取り組みになります。日本でも石棺にするという案がありましたが、現地の方が強く反発したため、石棺案を撤回しました。しかし溶融物を無理やり取り出すことはあまりにも危険なので、

 

石棺という選択肢も残しておかなければなりません。

 

─石棺にすると、どんなメリットがあるのでしょうか。

 

 いまは、建物の中に水を循環させて溶融物を冷却しています。水には遮蔽効果があるので、周辺の線量が下がりますが、大量の汚染水が生まれます。これを空冷にすれば、汚染水も出ませんし、管理も楽になります。そもそも汚染水の対策は困難が伴います。とても強い放射能を含んだ汚染水を濾して、環境下に出ないようにタンクに入れて保管しています。近くに流れている地下水に汚染水が流れ込まないように、汚染水の水位を地下水の水位より低く保つことにしています。ところが、東電は最近になって「装置がうまく働かず、汚染水が地下水に流れ込んでいた時もあった」と言い始めました。環境下に相当量の放射能が漏れている可能性も考えられます。

 このようなミスを防ぐため、人間が何もしなくても、「冷却」と「閉じ込め」機能を果たせるシステムにするべきです。そこで私は無理に溶融物を取り出さず石棺にして空冷にするのが、一番いいのではないかと思っています。空冷にした場合、チェルノブイリ原発は建物全体が汚染されていましたが、福島第一原発の場合は石棺にするべき箇所が多少限定されているので、石棺の規模は小さくて済むものと思います。石棺にしてある程度、線量が下がるまで放置しておき、それから徐々に作業を進めていけば、作業員の被ばくも少なくて済みます。「安全のためになるべく早く廃炉にする」というのもわかりますが、作業員の被ばく量をできるだけ減らすよう配慮する必要があります。まずは「安全性」、次に「被ばく量の低減」、そして最後に「経済性」という順番で計画を立て直すべきだと思います。

 

(P.61~P.63記事から抜粋)

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