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8.「東電株主代表訴訟」というもう一つの闘い~甫守一樹弁護士に聞く(編集部)

季刊『社会運動』2018年1月【429号】特集:あれから7年、福島の現実

「東電株主代表訴訟」というもう一つの闘い

 甫守一樹弁護士に聞く

 

東京電力の原発事故の責任をどうとらせるのか。集団訴訟とは違った手法で行っているのが「東電株主代表訴訟」である。その弁護団の一人、甫守一樹弁護士に話を聞いた。

 

─「東電株主代表訴訟」の特徴とは。

 

 東電役員個人の責任を追及している点です。株主代表訴訟とは、株主が、会社に損害を与えた取締役に賠償を求める制度です。原告である株主が勝訴すれば、役員は個人の財産で会社に損害を賠償します。この制度を使って、福島第一原発事故の責任を明確化するというのが、この裁判の狙いとなります。

 

─被告は誰になりますか。

 

 被告の数は最初は何十人もいましたが、現段階では5人になっています。勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長、小森明生元常務の5人。取り下げた人たちに責任がないわけではありませんが、個人がどんな仕事をし、それが事故にどうつながっていったのかを浮かびあがらせるには、少人数の方がよいと考えたからです。

 

─原告はどんな人たちですか。

 

 42人の個人株主です。原発事故が起こるよりもっと前、1991年から毎年株主総会で東電に脱原発路線を求めてきた人たちがいました。その人たちが原発事故1年後の2012年3月5日に訴訟を起こしたのです。

 政府の事故調査委員会が11年12月に「中間報告書」を出しました。そこには東電の取締役の津波対策に問題があったことが書かれていました。報告書を見て、「これで訴状が書ける」ということになったわけです。

 

─最大の争点は、津波対策になりますか。

 

 はい。08年、取締役の武藤氏のところに、津波対策担当者らが説明に出向いています。予想される津波として最大15・7メートルに達すると報告しました。「津波対策は不可避」という意見を言ったと思われます。しかし武藤氏は、ここまで大きい津波対策は資金も時間もかかるということで、対策は当面やらないと決めた。武藤氏に責任があるのは当然として、その他の取締役も、漫然と武藤氏の判断を追認した責任や、原発の安全より稼働率やコスト削減を優先させる東電の体質を放置していた責任があるはずです。

 裁判では、東電が実際にどのような津波対策をしようとしていたのか、どのような経緯で津波対策を先送りにしたのか、その経緯に個々の取締役や関係者はどのようなかかわりをしたのかという、具体的な事実が重視されることになるでしょう。

 集団訴訟の被告は国や東電なので、どうしても主張が抽象的、観念的な部分になる。それとは違った形の責任追及が行われています。

 

─裁判を傍聴してきました。被告の弁護団とともに東電の弁護団が並んでいるのですね。

 

 会社に損害を与えた責任を問う裁判ということを知っていれば違和感のある光景ですね。しかし、役員が負ければ経営に支障が及ぶという理屈で、法律で認められたことです。

 東電が参加したことで、ごく一部の内部資料を証拠提出させることができました。ただしあくまでごく一部です。しかし17年から刑事訴訟も始まりました。刑事が民事と違うのは検察の存在。刑事訴訟で提出されている重要な証拠は、いずれこの裁判でも提出されるようになります。(構成・編集部)

 

(P.123~P.124全文抜粋)

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