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誰も予想しなかった日本の「危険な未来」(市民セクター政策機構 専務理事 白井 和宏)

季刊『社会運動』2018年4月【430号】特集:改憲・戦争に反対する12の理由

誰も予想しなかった日本の「危険な未来」

市民セクター政策機構 専務理事 白井 和宏

 

改憲・戦争へと歩む日本その現実を直視する

 

 アメリカと北朝鮮が首脳会談に向けて動き出した。その一方、北朝鮮に圧力をかけ続け、改憲を悲願としてきた安倍政権が揺らいでいる。

 しかし朝鮮半島では「休戦協定」(1953年)から65年も緊張状態が続いてきた。非核化の道のりは長きにわたるだろう。近年は「中国脅威論」も台頭。自衛隊の軍事力は世界7位である。今秋の自民党総裁選において「ポスト安倍候補」と目される石破茂氏も「国防軍の新設」が持論だ。

 今後は、戦争体験のある世代が減少することで、改憲・戦争への抵抗感が薄らぐ可能性が高い。だからこそ改めて、改憲によって日本社会がどう変化するのか、戦争で何が起こるのか、その現実を直視してみたい。

 まずその前に知ってほしいのは、

①改憲に向けた「国民投票法」には、重大な欠陥があることだ。

 それは、広告宣伝活動に関する規制がほとんどないからだ。豊富な資金力を持つ与党や改憲勢力は、他国の脅威を煽る大キャンペーンを展開するはずだ。インパクトの強いテレビCMを大量に流せば、世論を誘導できる。国民投票の日程が決まってから「改憲反対」を訴えても、手遅れだということを認識しておきたい。

 

自衛隊で防衛できるのか?

 

 そもそも軍事力によって、日本を防衛することは可能なのだろうか。

②日本の最大の弱点は、海岸線にずらりと並べた「原発」である。攻撃されることを全く想定していないからだ。ミサイルどころか、ゲリラ攻撃に対しても防御不能だ。

 もしも「北朝鮮は何をしでかすか分からない無法者国家」であるのなら、当然、原発を攻撃するだろう。冷却ポンプや電源を破壊すれば大事故になるし、「使用済み燃料プール」を攻撃すれば大惨事となる。「原発を動かしながら戦争する」と主張する人びとは、「北朝鮮は原発を攻撃しない良い国」だと信じているのだろう。

③それでも政府は「ミサイル防衛システム」として、「イージスアショア(地上配備型迎撃ミサイル)」を秋田県と山口県に配備する計画だ。

 しかし北朝鮮が所有する移動式ミサイルは800発、核弾頭は30個といわれる。すべてのミサイルを撃ち落とすことは不可能だ。ソウルと東京が核攻撃を受ければ、数百万人の死傷者が出る。

 

核兵器の廃絶と日米地位協定の改定

 

④「ミサイルでは防衛できない」と分かっているから、「核による先制攻撃で北朝鮮を一気に壊滅せよ」という強硬論が勢いを増す。しかし、北朝鮮も核兵器を保有したことで、これまでの「核による戦争の抑止」は、その力を失った。

 ところが日本政府は、国連で採択された「核兵器禁止条約」の署名を拒否する。アメリカの科学雑誌が発表する「終末時計」によれば、「地球最後の日」まで残り2分に迫っているというのに。

⑤さらに問題なのは、日本が占領時代から結んでいる「日米地位協定」と「朝鮮国連軍地位協定」だ。この協定にもとづき、日本に米軍基地が置かれ、朝鮮有事の際には、日本も自動的に交戦国となる。そして在日米軍の主要基地を国連軍に使用させ、「後方支援」を行うのだ。

 「地位協定の改定」こそ、日本が戦争に巻き込まれないための優先課題だ。日本政府が改定を要求してこなかったのはなぜか。

 

憲法を否定する人びと

 

⑥多くの日本人は「アメリカは日本に対して何でも強硬に要求してくる」と信じている。しかし、「実際は、日本が主体的に『対米従属』政策を選択してきた」と言われる。例えば、「集団的自衛権を行使できるようにせよ」「特定秘密保護法を制定せよ」といった「アメリカの声」を作り出すことで、日本の政府や与野党の議員たちは、自らの目的を実現してきたのである。

 つまり、アメリカに徹底的に従属し、同盟国として信頼されることによって、「対米自立」を実現しようという戦略だ。

⑦その中には、「アメリカに押しつけられた憲法」を否定し、戦前の日本を実現することを目論む人びとがいる。その中心で活動するのが、「日本会議」なのである。安倍内閣の閣僚の4分の3に深いつながりがある。

⑧日本会議の目標は改憲だけではない。国民に愛国心を植えつけ、天皇を元首として敬まわせるような戦前の教育を目指している。そこで、彼らが新たに編纂した「歴史・公民の教科書」の採択運動を全国的に展開してきた。日本による侵略戦争と植民地支配をなかったことにし、「戦争する国づくり」へと子どもたちを誘導しようとする。

 

戦前に後戻りする日本

 

⑨法制度の面でも、戦前回帰が進む。2017年には「共謀罪」法が制定された。

 「テロリストが対象」という政府の説明とは裏腹に、一般市民も捜査・犯罪の対象にし、市民運動を日常的に監視する法律である。

 戦前に反戦思想を弾圧するために使われた「治安維持法」と重なる。

⑩さらに自民党は「家庭教育支援法」の制定や、「家庭における個人の尊厳」をうたった「憲法24条」の「改正」をもくろむ。

 「家庭教育は、父母その他の保護者の第一義的責任」、「家族は、互いに助け合わなければならない」と、「あるべき家族像」を押しつけようとする。

⑪「武器輸出」は、財界にとって新たなビジネスチャンスであり、日本政府にとっては「成長戦略」の一環である。大学もまた軍事研究を始めようとしている。「戦争のできる国」づくりとは、「戦争を欲する国」なのである。

⑫最後の仕上げが、議会制民主主義を崩壊させる「緊急事態条項」を憲法に盛り込むことだ。大規模災害や、外部からの武力攻撃が起きたら、政府に権限を集中し、国会議員の任期延長、国民の私権制限を行うという。

 「ナチスの手口を学んだらどうかね」と語ったのは麻生太郎副総理だが、ドイツのヒトラーは「緊急事態宣言」によって独裁的な権限を築いた。

 

 「改憲」後には、生活・産業・政治のすべてを国家が統治する社会となる。「戦争」が起きれば短期間に数百万人が死亡し、日本の国土は廃墟と化す。

 21世紀は「共生の時代」だとした、楽観的な見通しからわずか20年足らず。今や誰も予想しなかった「危険な未来」が迫っているのではないか。

(P.6~P.9記事全文)

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