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市民セクター政策機構

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③気候危機に立ち向かう<コモン>の領域を広げる(大阪市立大学准教授 斎藤幸平)

季刊『社会運動』2020年7月【439号】特集:いまなら間に合う!気候危機

気候変動は資本主義が引き起こしている

─日本でも最近大きな台風や豪雨災害の頻発などで、気候変動の影響を身近に感じる人が増えたと思います。京都議定書が採択されたCOP3からすでに20年以上が経っているのに、対策が進んでこなかった背景をどのようにお考えでしょうか。

 私は基本的に、気候変動という問題は資本主義が引き起こしていると考えています。1988年にジェームズ・ハンセンという米航空宇宙局(NASA)の研究者が、99パーセントの確率で人間が気候変動を引き起こしていると米議会で警告しました。それを契機に国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって設立されました。もしその頃から対策を始めていれば、例えば CO?の排出量を年3パーセントくらいのペースでゆっくり減らしていくような形で、その後の30年間に十分解決が可能な問題だったはずです。
 ところが、80年代末から90年代初頭にかけて何が起きたかというと、ソ連が崩壊して冷戦が終わり、資本主義は勝利し、アメリカ型のグローバル化が最も効率が良く、人びとに自由をもたらすシステムなんだという言説が力をもつようになりました。各国の左派は弱体化し、東側の国々にも新しい労働市場や商品市場が生まれ、資本主義が絶好調になっていき、気候変動の危機などはすっかり忘れ去られてしまいました。
 なぜかといえば、気候変動に対処しようとすれば、市場や生産に様々な規制をかけたり、 CO?の排出量に応じた課税をするなどの対策を講じなければなりません。しかし、この30年間は規制緩和や貿易の自由化、そして減税などの新自由主義的な政策が圧倒的に勝ってしまったわけです。
 その結果何が起きたかと言えば、人類がいままでに燃焼した化石燃料の総量の半分をこの30年間で使ってしまったのです。こんな短い期間でそれだけの化石燃料を使えば、気候変動が起こるのは当然ですし、全く持続可能ではありません。グローバル化して人やモノの移動が簡単になり何でも手に入るなど便利になっていますが、長期的にみれば、その代償はあまりにも大きいのです。
 この30年間、左派も資本主義自体を批判しなくなってしまったのですが、この気候変動の危機的な状況を考えれば、利潤を人びとの生活や自然の持続可能性よりも優先してしまう資本主義というシステムをもう一度批判して、乗り越えて行かなければ、人類が滅ぶか資本主義が滅ぶかのどちらかだと私は考えています。

(P.143~P.145記事抜粋)

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