市民セクター政策機構 トップページへ戻る
トピックス 出版物 研究会
記事データベース 目次 月刊「社会運動」を中心に各記事を紹介しています。全文は「会員用ページ」に収録してあります。


*バックナンバーのご注文はメールでもお受けします。  市民セクター政策機構

 

『社会運動』 294号

2004年9月15日

目次

<特別インタビュー>劇的なパラダイム転換―『逆システム学』の視点 金子勝×新保ちい子‥‥ 2
社会的経済モンブラン会議報告 人と人とのグローバル化を 粕谷信次‥‥17
協同組合思想(中) 協同組合ともう一つの社会〜シューマッハとTOES 森田邦彦‥‥28
この一枚<われら人間:50のコミュニティ賞> ‥‥33
GM最新事情  「GMO予防法」オーストリア編^tたかおまゆみ‥‥34
<食>の焦点B――キャベツと日本農業 今野 聰‥‥40
事例研究  このNPOが成功した理由 眞 淳平‥‥41
・偽りの“人間回復”@ 正義と快楽の「人間抹殺」 葉上太郎‥‥48
海外レポート イラクの主権委譲? チャンドラ・ムザファー‥‥54
WTOウォッチ 一般理事会が今後の交渉の枠組みについて合意 清水亮子‥‥56
映画『自転車で行こう』を制作して 「家、ドコー?」からそれは始まった 杉本信昭‥‥57
<書評> 山口二郎著『戦後政治の崩壊』 折原良尚‥‥61
<状況風景論> ポジャキ、をんな唄&在日の本国参政権と日本の地方参政権 ‥‥63
雑記帖 細谷正子‥‥64

<特別インタビュー>

劇的なパラダイム転換
『逆システム学』の視点

金子 勝

(慶應義塾大学経済学部教授)

<聞き手>

新保ちい子

(生活クラブ生協・千葉副理事長)

 『逆システム学』(岩波新書)というユニークな本が出ました。著者は経済学者の金子勝さんと生物学者の児玉龍彦さん。取り合わせも異色なら、中身も異色です。‥ゲノム解析によって生命が判る、という期待を私たちはしています。ところが「逆システム学」から言えば、生命を芝居に例えれば、ゲノム解析は登場人物の特定に過ぎないことになります。登場人物一覧では芝居は出来上がらない。台詞があり、ト書きがあり、演出があり、更には観客を含めた環境との応答がある。生命や社会のシステムとは、その芝居全体のことである‥以上が『逆システム学』の読後感でした。超多忙な金子さんのお時間をいただき、生活クラブ・千葉副理事長新保ちい子さんにインタビューしていただきました。(編集部)

――共著者の児玉龍彦さんとは、どういうお付き合いなんでしょうか。


金子 実をいうと、児玉君とは中学1年の時から同級生なんです。大学まで一緒でした。
 生物学と経済学では異分野過ぎるし、これだけ密度濃くやり合っていくというのは、かなり長い付き合いでないと出来なかったかも分かりませんね。僕らは40年来の知り合いです。彼は、中学生ぐらいから難しい遺伝分子生物学が大好きで、受験勉強も一緒にしました。
 この本は、昨年7月半ばに会った時に、「そろそろ2人で何かやろうか」みたいな話になって、いくつかの出版社に持ち込みました。すると、金子勝だけの本は分かるし、児玉龍彦だけの本も分かる。彼はゲノム創薬で結構活躍していましたからね。しかし、その2人でなぜ一緒の本になるのかと言われまして、趣意書を書いたんですけど、どこも引き受けてくれない。
 岩波新書の編集長だけが引き受けてくれたんだけど、趣意書を読んでも分からなくて編集会議で説得できない。とりあえず書いてくれと言われて、書き上げてからそれでようやく僕らが言いたいことが分かった、というわけです。(笑)
 進め方は、最初に児玉君がゲノム解読で分かってきたこととか、コア・メッセージを40枚に要約して書いて、僕がそれを経済学に置き換えたらどうかということを倍の80枚ぐらいにして書いて返す。そうすると彼が倍返ししてくる。それを取りあえず僕が1つの本の形にして、今度は1章1章について、お互いに相手に合わせて直したり、これを入れたほうがいい、というふうに相互乗り入れする。
 そういうやり方で、2ヵ月半で450枚書き上げて、それを350枚ぐらいにカットして、何と3ヵ月ぐらいで出来てしまった。それがこの本です。ただ、助走がすごく長いんです。  ‥‥続く

<社会的経済モンブラン会議報告>

人と人とのグローバル化を
ドゥフルニとラロースが基調報告

語る人 粕谷信次

(法政大学経済学部教授)

聞く人 柏井宏之

(社会的経済PT事務局)

――社会的経済の初めての世界会議がモンブランの麓の町、モルズィン(Morzine、フランス)で、4月29日から5月1日にかけて開かれました。生協総研の栗本さんから「社会的経済促進プロジェクト」の事務局をしている市民セクター政策機構にその企画の紹介があり、粕谷先生に無理をお願いし、またワーカーズ・コレクティブ(WNJ)の藤木千草、金忠紘子さんには、まだ法制化を見ない新しい協同組合の実践者として参加していただきました。モンブラン会議への呼びかけの主な内容はどういうことだったのでしょうか。


粕谷 第一に、ヨーロッパの社会的経済セクター(これからお話するように、「新しい社会的経済」ないし「社会的経済・連帯経済」(the social and solidarity economy) といった方がより正確でしょうが)を担う人々の間での危機感―いま滔々と進行している新自由主義的なグローバリゼーションが、社会的にも環境的にも持続可能な発展を危うくしつつあるという危機感―が表明されています。
 第二に、そのような危機に対して、社会的経済こそが経済的にも、社会的にも、そして環境的にも持続可能な発展を可能にするイニシャティブを取れるはずだという社会的経済の潜在的能力への確信、期待が述べられる。
 しかし、第三に、現実には、そのような潜在的能力はなお顕在化せず、多国籍企業やダボス・タイプの資本の国際化の波に覆われ、目に見える「人と人とのグローバル化」となっていない。それは、とりわけ、協同組合、共済、アソシエーションなど社会的経済のそれぞれの領域では実践され、また、それぞれの領域のうちでは会合をもち、あるいは協力し合っているものの、それぞれ    ‥‥続く

<協同組合思想(中)>

協同組合ともう一つの社会
〜シューマッハとTOES

協同組合学会員

森田 邦彦

3.E・F・シューマッハとその思想
 シューマッハは(1911−1977)ドイツのボンの生まれ。英国オクスフォード大学で学び、戦前はアメリカのコロンビア大学の教授、戦後は英国の石炭公社の顧問や、第三世界・発展途上国の顧問、さらに土壌協会(SoilAssociation)の代表、スコットベーダー協会の理事などを務めた人で、1941年30歳の時の論文がメイナード・ケインズ(1883−1946)の目にとまり、その後継者と目されたとされる人です。
 1960年代までの、長年の人類の歴史は物的貧困と、略奪のための戦争の歴史であり、人々は物をつくりだすことは、すべて善Goodであり、人々の欲求を充たすことは、すなわち幸福である、(最大多数の最大幸福〜功利主義)と多くの人々が信じて疑うことがありませんでした。したがって、生産された商品はすべて善=Goodであり、その複数Goodsが商品ということばになりました。逆に、人々を不幸にする商品はBadであり、そうしたものは、複数Badsでなければならないのですが、いまだにBadsという言葉は英語の辞書にはありません。彼は著書『Small is beautiful』で、物質至上主義、巨大主義、科学技術万能主義を批判し、金銭では買えない非物質的価値を尊重した人間生活の復興こそが、    ‥‥続く

<この一枚>

 生活クラブ生協は1995年9月、『われら人間:50のコミュニティ賞』を受賞した。同賞は、国連創立50周年を記念し、国連憲章の精神とビジョンを広めることを目的に活動するNGO「国連の友」が企画したもので、国際諮問委員会による選考委員会により、世界レベル、地域レベルで活動する市民主導型の50団体が選ばれた。
 受賞団はニューヨークのヨハネ大聖堂で行われた50周年記念式典ミサに参列後、大聖堂内セネド館で開催された授賞式に臨んだ。写真は、実行委員長ノーラーケート・ソイモアさんを囲む生活クラブ受賞団一行  ‥‥続く

<GM最新事情>

「GMO予防法」オーストリア編

ドイツ語翻訳者

たかお まゆみ

 オーストリアといえば、音楽・観光都市ウイーンと、『サウンド・オブ・ミュージック』で繰り広げられた山岳地帯の目を引く美しさを思いうかべる方が多いだろう。遺伝子組み換え(GM)食品を忌避するこの国の市民の思いはそれらの点と無縁ではないようだ。また、日本の市民にとってこの国の電力事情も魅力的である。水力73%、火力23%(1997連邦統計局)で、自然エネルギーを生かしたいささかの電力輸出国だ。市民の反原発感情が強いため原発は一貫して稼動してこなかった。ちなみに、欧州委員会で共通農業政策とGM農業問題を取り仕切ってきたフランツ・フィシュラー農業担当委員はオーストリア出身である。オーストリアのやることは小国で小回りが利く分、何かとユニークで目が離せない。

T オーストリア農業の特徴
 基本数値については表1を参照ねがいたい。EUにおける同国農業の特徴は、条件不利地域(=山岳地帯など)を多く抱える点とEU有数の有機農業国である点だ。農業収入は酪農が65%、穀物  ‥‥続く

<食>の焦点B

キャベツと日本農業

(財)協同組合経営研究所

元研究員 今野 聰

1.練馬のキャベツ
 子供の頃から玉菜(タマナ)といって慣れ親しんだ大型野菜から日本農業を考えてみる。野菜に輸入の嵐が吹いても、やっぱり国産のキャベツである。1,400万トンの生産量の10%弱を占める。
 見慣れた風景は都内練馬区、春先3月。一斉にキャベツ畑になる。秋口8月末から再び幼苗移植である。正に年2作で、都市農業の現実を少しは誇っている。かくて「練馬ダイコン」は今や死語。ダイコンよりキャベツという訳である。食生活にキャベツは欠かせないが、とりわけトンカツ料理では絶対セットそのもの。レタスでは様にならない。だから大都市近郊にこれら大品目野菜産地がかろうじてあることに感謝である。
 同様、生協の共同購入注文書の野菜欄をみる。キャベツは1個当たり価格で、年間産地は移動する。大品目なのである。これが、700円辺りに暴騰したら大変。大騒ぎだ。‥‥続く

<事例研究>

このNPOが成功した理由
〜伸びているNPO法人の秘密を探る〜

眞 淳平
(エコ・パブリッシング)

 今年6月末の数字で、認証されたNPOの数は累計で17,000余り。今や社会の多くの局面で、NPOの存在感が増しているのも事実である。しかしながら、財政面、人材面などで多くの制約を抱え、提供するサービスと利用者のニーズに大きな隔たりがあったり、ノウハウの蓄積や内部体制の確立に失敗して業務に支障を来しているようなNPO団体も少ないとは言えない。

財政、人材、活動方向等にも検討が必要
 もちろん、NPOはミッション(使命)が先にある組織であり、多くのNPOが崇高な理念とビジョンを持って始まったことには疑いがない。けれども、資金調達のための体制を確立し、財政基盤を整えること。スキルのあるスタッフを確保しつつ、そのトレーニングのためにも団体の資源(資金・人手・時間等)を投入すること。さらに、自団体の強みと弱み、周囲の社会的環境等を分析した上で、  ‥‥続く

偽りの“人間回復”@

正義と快楽の「人間抹殺」
―ハンセン病・元患者の宿泊拒否事件に見る日本社会の病理―

地方自治ジャーナリスト・

葉上 太郎

 人が人を抹殺すれば、殺人罪だろう。だが、国家や社会が寄ってたかって抹殺すれば、それは正義になる。抹殺の理由が、いかに科学的・哲学的に間違っていようともである。殺す側にとって、抹殺は自らの平穏を得るための行動に過ぎないから、快感にさえ思えることすらあるのだ。戦争の「殺す側の論理」がいつもそうだろう。だが、それが、今まさにこの日本で、しかも私達の前で進行しているとすれば、どうだろうか。らい予防法廃止や国家賠償訴訟で、ようやく回復されたかに見えた元ハンセン病患者の「人間」が、熊本県・黒川温泉ホテルの宿泊拒否事件を契機に再び失われようとしている。またしても「人間抹殺」を行おうとしているのは、我々の社会だ。問われているのは我々自身なのである。

◆人権派知事の足元で
 北海道、千葉、大阪、熊本。
 この4道府県の名前を聞いてピンと来る人がいれば、相当に通だ。
 答えは、まだ少ない女性知事のいる道府県である。なかでも熊本県の潮谷義子知事は、最も人権感覚に鋭敏と言われている。
 義父の故総一郎さんは、ハンセン病患者の子供達に対する差別事件や、死刑が冤罪とされた免田事件で先頭に立ったことで有名だ。潮谷知事もその精神を受け継ぐ“人権肌”とされる。
「事件」は、その潮谷知事のお膝元で起こった。
 話は、昨秋にさかのぼる−−。
「非常に残念な事態が今、熊本で起きております」
 定例記者会見で、こう絞り出すように切り出した潮谷知事が、元ハンセン病患者に対する差別事件が発生していることを公表したのは、昨年(2003年)11月18日のことだった。
 国立のハンセン病療養所は全国に13カ所ある。そのうちの最大の施設は熊本県合志町の「菊池恵楓園」だ。だが、「療養所」と言っても名ばかりで、実はとうの昔にほぼ全員が完治している。
‥‥続く

海外レポート


イラクの主権委譲?

チャンドラ・ムザファー(JUST)

 

訳:佐藤直子、十河温子、大薮寿里、三上浩子、石田洋子、水野りる子、山本千鶴子、西容子、荒井佐代子、永田マキ子

 2004年6月28日、バグダッドで行われたイラク暫定政府への主権移譲について、アラブ世論の大部分が懐疑的な理由は、うなずける。
 第一に、暫定政府は、離任するポール・ブレマー文民行政官(編註:当時米英占領当局CPAのトップ)が都合のいいように大半を選んで、ラクダール・ブラヒミ国連イラク特使が選んだ若干名を加えたものだ。主に旧イラクからの亡命者で占められ、新政府の指導者のほとんどはイラク国民に知られていない。さらに悪いことには、イヤド・アラウィ・イラク暫定政府首相は、CIAの元工作員だ。これは週末にABCニュースで、体制側の政治評論家がうっかり認めた事実である。
 第二に、イラクの治安は未だアメリカとその同盟国側の管理下にある。16万人は下らない米軍と同盟軍がイラクに駐留していることが、何よりも如実にこの現実を現している。イラクの人々が駐留をどう思っていようと、米国政府が望む限り、軍隊はイラク国内に駐留し続けるだろう。そして米国の経済的戦略的利益に合致する限り、軍隊をイラクに駐留させ続けることだろう。
 第三に、もちろんこれらの軍隊は、いかに重罪を犯そうとイラクの裁判所に起訴されることはない。米国やヨーロッパ諸国の民間建設業者でさえ、イラクの法律の適用を免れる。これは、2004年6月26日にブレマーが署名した指令による措置である。いったいこれで、イラクの主権などといえるだろうか。‥‥続く

WTOウォッチ

一般理事会が今後の交渉の枠組みについて合意

 ジュネーブでのWTO(世界貿易機構)一般理事会は8月1日、今後の交渉の枠組みを示した「7月枠組み文書」について合意した。昨年9月、メキシコのカンクンで開催された閣僚会議が決裂し、暗礁に乗り上げたWTOのドーハ・ラウンドが、これによって息を吹き返したかに見える。この合意について川口外務大臣は「今後の包括的な交渉において、バランスのとれた最終合意を達成するための土台となる内容が盛り込まれていると同時に、農業においては我が国の非貿易関心事項を今後の交渉で主張できるものとなっている」と評価している。

●交渉の場がふたたび「グリーンルーム」に
 これに対し、ウォルデン・ベロー(フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス、タイ)、マーチン・コウ(第三世界ネットワーク、マレーシア)など、途上国の立場に立つNGOを代表する人々は、今回の合意について、決定のプロセスを第一に問題視する。カンクンでの閣僚会議には加盟国の大臣が出席し、部分的にではあれNGOの参加も認められた。一方、ジュネーブの一般理事会には、「たった40人程度の貿易担当大臣が出席したたけで、カンクン閣僚会議で重要な役割を果たしたケニアやナイジェリアなどの国々の代表の多くは不在だった」(ベロー)。
‥‥続く

映画『自転車で行こう』を制作して

「家、ドコー?」からそれは始まった−映画の底に流れるもの−

映画監督 杉本 信昭

 『自転車で行こう』という映画の上映が意志ある人のいるところではじまっている。李復明(リ・プーミョン)という20才の青年は福祉作業所の営業係だ。毎日毎日自転車を漕いで街へ、製品を売りにでかける。大阪市生野区の平野川沿いの一帯を風のように駆け抜ける知的障害者を追ったドキュメンタリー映画。その杉本信昭監督に制作の想いを寄稿してもらった。(編集部)

 映画「自転車でいこう」の撮影は2002年6月に始まり2003年3月に終わった。
 舞台は大阪市生野区。知的障害のある青年李復明(リ・プーミョン)、彼の友人である学童保育所の4人のスタッフ、彼等を取り巻く街の人々‥これが「自転車でいこう」の登場人物。映画が映したのはこの登場人物達が確かに存在しているという証と、その底に流れている生野という街の資質のようなものだと思っている。

映画以前
 1996年、生野区内にある健常児と障害児を一緒に保育する療育施設の映画を作りたいという依頼を受け私は初めてこの街にやってきた。そして数年後、この映画の企画は頓挫した。大きな理由は、何人かの知的障害児の親がこどもの撮影を拒否したためだった。
 就学前になっても我が子がなかなか言葉を話さない。突飛な行動をする。訓練を続けていったら“治る”かもしれない。“治らない”かもしれない。この子とどう暮らしていったらいいのかわからない。一緒に死のうとさえ思った‥。
 「そういう私達の気持ちと現実がわかりますか?」と問い詰められた私は「もちろんわかりません。わからないから映画にしたいのです」と答え失笑をかった。しかし眼の前にいるこども達はえらく素直に付き合っているように見える。障害があるかもしれない子も無いかもしれない子も、そんなことと関係なくただエネルギッシュに遊んでいる風に見える。「“障害者”“健常者”というくくりは、普通の生活を送っている健常者が、その普通の生活が壊れないように、社会がスムーズに回っていくように考えたものなのですね。小さいうちはそんなくくりが必要ないようだし」と私が言うと、親たちは「当たり前じゃないですか」と再び失笑した。結局私にはその親達の考えを覆す言葉は無か
‥‥続く

書評

山口二郎著

『戦後政治の崩壊』−デモクラシーはどこへゆくのか−岩波新書

法政大学大学院 折原良尚

 本書は政治学者、山口二郎による日本の民主主義の危機を論じた好著である。著者の危機感は、「あとがき」の一節に垣間見える。すなわち、著者は日本の民主主義をハーメルンの笛吹き男の童話にたとえ、「『構造改革』や『テロとの戦い』という笛の音にだまされるなと国民に訴えるためにこの本を書いた」と述べている。周知の通り、ハーメルンの笛吹き男の童話とは、ネズミを退治した男に村人たちが報酬を払わなかったため、怒った「男」が130人の子供たちを連れて山に消えてしまうというグリムの童話のことである。
 「笛吹き男」が小泉内閣であるとすると、連れて行かれた「子供たち」は戦後政治が追求してきた価値であり、残された「村人たち」はさしずめ国民ということになるのであろう。いずれにしろこのたとえ話は、最近感じられる政局に関する違和感を見事に喝破してくれているように思われる。

「戦後政治」とはいかなるものであったか
 著者は、日本政治が陥っている危機を「戦後政治の崩壊」と認識し、これに抗うために、なぜ危機であるのかを明確に分析している。
‥‥続く

《状況風景論》

ポジャキ、をんな唄&在日の本国参政権と日本の地方参政権

 

●その美的な生活用具
 5回目を迎えた新宿の「多文化たんけん隊2004」の企画の一つ、ポジャキの話を聞きにでかけた。それはふろしき、パッチワーク風の生活用具だ。語り手の李サンジョさんがなんと60年前の古いものから新作までを披露、新宿区役所前の韓国料理「ぱらんせ」には30名を越える人たちが集まった。
 日本の風呂敷とは違って紐がついている。お膳かけにつかわれるものはパグジェ。日本でもふきんかけの風習があった。チョゴリの端切れなどでパッチワーク風にデザインしたそれは今、現代アートの視点から脚光を浴びている。北にも南にも行った李さんから地域色鮮やかな違いが語られる。今でも韓国の50歳代以上のオモニがポジャキをくるくるとまいて後手にして市場に出かける仕草をしてみんなを笑わせた。そこには日本人が高度成長の中でビニール袋にすっかりとって代わられた東アジアの生活文化につながる、燐とした布の文化があった。‥‥続く

雑記帖

【細谷 正子】

 私ごとで恐縮だが当時20代後半の子育て真っ最中の私の毎日を、ご近所の「痴呆老人問題」が襲っていた。当時は今のような福祉の仕組みもほとんど無く、ましてや他人の家の事件が私の生活を巻き込んでいたのだ。そんなのは一例で、高齢社会の持つ問題の典型事例に事欠かない、まさに高齢社会を先取りしたような地域の中で生活してきた体験は、これからの地域に何が必要かを考えるのに大変役立った。
 皮肉な事に、今我が家の周りは人口が急増し一挙に若い世代に変わってしまった。当時高齢だった方々は次々と他界され、残された土地は全て主が変わりミニ開発ラッシュが押し寄せている。
 久し振りに福祉施設の現場を幾つか見た。現在の地域福祉の状況を見て、この約20年の差を実感した。というよりも当時は特別でしかなかった私の「近所」が、確実に社会全部に広がったんだという実感だった。若者が多く働いていた。勉強してきた事とは関係無く、2級ヘルパーの資格だけはとっておくよう就職指導されるそうだ。間違いなく仕事に就けるのは福祉関係だからだ。若い人ばかりでなく今福祉の仕事に就く人が多い。人手が絶対に必要な所だから何よりだが、やはり質の高い指導を目指す所は少ないのだろうか。ちょっとした所作や言葉づかいに違和感を感じてしまう事がある。介護を受ける人はもっと敏感に感じとる。痴呆を生きる人の目はごまかせない。豊かな地域福祉はこれからだ。当誌でも「現代アソシエーション研究会」で触れていた地域労働、豊かな地域労働のあり方を考えるには、今、福祉の分野はいいかもしれない。

*ご注文はメールでもお受けします。
* <5〜9冊(送料無料)、 10冊以上割引あり>
  市民セクター政策機構   < civil@prics.net>


トップページへ戻る