②若手研究員を中心に日韓協同組合研究がスタート
<対談>
杉本貴史さん(第22期日本協同組合学会長、関西大学商学部教授)
金享美さん(第21代韓国協同組合学会長)
【まもなく発売】季刊『社会運動』2025年1月発行【457号】特集:いまこそ、協同組合の出番 2025年は国際協同組合年
―なぜ日韓共同で協同組合研究を始めることになったのか、その経緯を教えてください。
杉本 まず、日韓協同組合研究について簡単に説明します。その目標は、「2025国際協同組合年」を記念して、日本と韓国の協同組合運動の現状と課題を若手研究者を中心とする共同調査チームが調査することで、新たな学術的な発展と実践への政策提言に結びつけることにあります。
なぜ日韓なのか、その理由は、私が日本協同組合学会の会長に就任して「私たちの学会に何が足りないのか」と考えたことです。それは「国際性」でした。私たち日本の協同組合研究は、自分たちが進んでいると思い込んでいて「世界でこんなに多くの専門家が生協や農協を研究している国はない」と自画自賛している傾向があります。それは一面では正しいのですが、その研究は外国の研究者にはまったく伝わっていません。日本の生協や農協について、外国の研究者はほとんど知りません。なぜかといえば、英語で書かれた論文や書籍がほとんどないからです。日本人が書いた論文はたくさんありますが、そのほとんど全部が日本語です。そこで何とか国際的に情報を発信したいと考えた時に頭をよぎったのが、韓国協同組合学会の会長になられた金亨美先生の存在でした。
2008年から12年まで明治大学で研究されていた金先生とは以前から面識があり、同じ会長という立場で、日韓でいままでできなかったことが可能になるのではと思い、2023年秋の東京やソウルでの学会でご挨拶して、将来は共同研究ができれば……と話し合ったことを思い起こし、「日本国内の研究助成に申請するので、共同研究のチームを作れないでしょうか」と相談をもちかけました。これまでの協同組合研究は、それぞれ地域別、国別に調査と研究が進められてきましたが、日韓共同で研究することで、これまでとはちょっと違った視点から物事を見ることができ、非常に有益だと思ったわけです。
加えて、「ぜひ若手の研究者を推薦してください」とお願いしました。これまでになかった視点、例えば、韓国の協同組合を研究する若い人びとの立場から日本の協同組合を見てもらい、感じたことを伝えてもらいたいと考えたのです。これが実現できれば、「2025国際協同組合年」に合った、とてもタイムリーな企画になると思いました。
少し厳しい言い方かもしれませんが、前回2012年の「国際協同組合年」では、日本の協同組合の前進がほとんどなかったのです。それに対して、韓国は非常に大きな変化があったと聞いています。2025年に向けて韓国から何を学べるのか、日本側からの視点で考えました。日本と韓国の協同組合学会の国際共同研究ができれば、今後は、さらに台湾、中国、シンガポール、インドなどアジア全体の国際共同研究という道筋も見えてくるかもしれません。たまたま知己を得た金先生と私が、それぞれの学会で会長という立場に同時期に就任したことで共同研究の構想が生まれたのですが、偶然ではないとも言えるかもしれません。
金 私も2023年度に、韓国協同組合学会の第21代の会長になりました。調べてみると、1992年度に東京で開催された国際協同組合同盟(ICA)大会に、韓国の協同組合学会からも会長を含めて数人が参加しています。それ以来、互いの会長が両国に招聘されて特別講演を行うなどの交流が何度もありました。せっかくそのような積み重ねがあるのだから、人的交流や研究の交流をさらに進めることはできないか、できればこれからの日韓協同組合学会の交流は、会長レベルの交流を超えた共同研究に進めればいいなと私も感じていました。そのことを杉本先生に提案したところ、同様のお考えをお持ちで、日本での研究助成を受けられるよう資金や人選などの具体的に進めてくださいました。
先ほど杉本先生が、日韓の協同組合研究を国際的な視点から行うことを強調されましたが、私もまったく同感です。アジアの協同組合は、ヨーロッパの協同組合とは違った特質を持っています。つまりアジアの場合、多くの国で植民地の時代という歴史的特質があり、その後の開発経済では国の力や政策が協同組合運動にとても強い影響を及ぼしてきました。ところが、それぞれが自国の協同組合研究だけに集中してしまっているのが現状です。このような傾向を越えるような共同研究が、いままで両学会が交流を積み重ねてきた日韓から始まることはとても重要だと考えたのです。
もう一つの重要性は、今回の共同研究は、多様な若手研究者に広がる可能性があることです。コロナ禍で発達したIT技術によって、AIによる通訳、翻訳、オンラインでの会議がいくらでもできるはずです。以前は日本語と韓国語の両方に精通してないと原稿も書けず、共同研究が進められないと思われていましたが、いまの若手研究者たちは英語でコミュニケーションを取ることができるうえ、さらにAIによる様々なツールを生かすことによって、国際的に意思疎通する環境が整っています。したがっていまでは日韓の協同組合運動だけではなく、アジア全体をより国際的に捉えるような研究を行うことが可能ですし、人類が直面している複合的な危機を乗り越える、新たな道しるべも生まれるかもしれない、と思っています。
(P.23-P.26 記事抜粋)