ドイツで「GM牛乳裁判」騒ぎが広がっている。中欧周辺国も呼応している。「シュマイザー裁判」ならぬこの「GM牛乳裁判」。以下の記事では、このGM牛乳裁判が第二審で市民団体・消費者が優位に立ったところまでを04年11月の時点で記している。この裁判を追いかけていてもっとも感じたことは、日本の消費者は食品情報をもっと保障されるべきだということだった。食品情報の入手を保障する最も効果的な方法は、「食品表示規則」を充分かつ、分かりやすくしていくことにある。「日本の食品安全行政は消費者本位に転換した」と国がいうのであれば、穴だらけのGM食品表示も、消費者本位に改正していかなければならない。「消費者に情報を!」と呼びかけるための元気を海の向こうからもらった。
1.GM牛乳騒動―あるクライマックス
「牛乳からGMO飼料の痕跡が見つかった!」――このショッキングなニュースをグリンピース本部(ハンブルク)が報じたのは2004年の6月21日だった。バイエルン州にあるバイエンステファン牛乳・食品研究センターの牛乳検体検査でみつかったもので、「担当の研究者自身も驚いた」と報じられた。検出されたのはラウンドアップ耐性大豆とBt176コーン。牛たちはこれらのGMO飼料を与えられていた。このニュースは農業関連のWEBサイトでも直ちに流され、中には「もし真実であれば、世界で初めての例だ」(Agrar.deアクチャルニュース04年6月21日)と報じたところもあった。
2.GM牛乳騒動の経緯
実はこれは、牛にGMO飼料を与えている大手乳業会社ミュラー社とグリンピースの争いに関係がある報道だった。
04年4月18日、EU域内に厳格な新GM表示法が施行された。新法はGMOを拒否するEU市民から好意的に受け取られているものの、残すところの大問題が一つある。それは、使用した家畜飼料の内容について表示義務がないということだ。そのため新表示法歓迎ムードの中で同時スタートしたのが、有機農業団体、環境団体、消費者団体などによる家畜GMO飼料表示義務化のキャンペーンだった。これを加速したのが同時期に予定されていたEUのGMモラトリアム解除であったことはいうまでもない。
そのような背景の中で起きたこのGM牛乳騒動。時系列でふりかえってみよう。
・03年末:グリンピース、“GMなしの食事を!”キャンペーン開始
・04年新春:グリンピース、大手食品企業に対して、「GMO飼料を使用しているか?」「今後GMO飼料をどうするつもりか?」などのアンケートをとる
・これに対してTheo Mueller GmbH u.KG(以下「ミュラー社」と略)は無回答
・04年4月:ミュラー社は「今後はGMO飼料を使用しない意向」と回答
・グリンピース、その後、四つの港からミュラー行きのGM大豆を発見
・ミュラー社、グリンピースの問い合わせに対し、GMO飼料の使用を否定せず
・グリンピース、ミュラー社が、アルペン地方で搾乳されていない牛乳を「アルペン牛乳」と称しているのにも反発
・グリンピース、ミュラー社の牛乳および乳製品を「GM牛乳」と称して、キャンペーンを開始。
・5月中旬:主要50都市で「GM牛乳・・それとも?」「ミュラー牛乳=GM牛乳・・それとも?」「GM牛乳。買い物かごにいれないで」などのスローガンで反ミュラー牛乳運動。
・6月8日:ミュラー社、ケルン地方裁判所に「グリンピースが自社の製品をGM牛乳と称するのは根拠がない」として訴えを起こす
・6月21日:グリンピース、「牛乳にGMO!」という前記の研究データを報道
3.6月23日の仮判決
ケルン地方裁判所はこの争いに対して、6月23日に仮判決を出した。「グリンピースはミュラー社の牛乳を『GM牛乳』と呼称してはならない。飼料として与えたGMOが牛乳の中から検出されたというのは誤った科学的データだ。ミュラー社の牛乳はGM牛乳ではない」というものだった。そして、店舗でのGM牛乳ステッカー貼り付けの禁止、電子ハガキを用いて消費者がミュラー社に抗議する取り組みを先導することを禁止、WEBサイトでミュラー社のキャラクターをGM牛乳と関連させて揶揄してはならない、など具体的な禁止事項を指示した。
これに対してグリンピースは「GM牛乳という表現がまずいのならそれはそれでよい。我々が問題にしているのは表現ではなく、ミュラー社がGM大豆契約農家との専属契約を見直し、GMO飼料を拒否する市民らの願いに耳を傾けるようになることだ。GM牛乳という表現は使わなくてもキャンペーン内容は続けていく。ミュラー社はわれわれの口を塞ぐことはできない」と述べ、すぐに上告した。
4.バイエンステファンの検査結果はいったい何だったのか?
冒頭の検査データはバイエンステファン牛乳・食品研究センター刊行の専門誌に3年前に取り上げられていたものだった。これに陽の目をあてたグリンピース報道の中身に誤りはなかった。しかしグリンピースは、雑誌記事の一部を省くという過ちを犯したらしい。なぜなら同研究所側は、「検体の抜き取り時の情報が不足していた点、抜き取りから検査までの衛生管理が十分でなかった点があり、風により飼料が検体に紛れ込んだ可能性がある」とコメントしていたからだ。改めてインタビューに応じた同研究所のH.マイヤー博士も、「不十分な検体だった可能性が高い」としてグリンピース報道を批判した。
翌日以降、研究者団体から「GMOを食べている牛から搾乳した牛乳に、飼料中のGMO痕跡が検出されることは学術的にあり得ない」という批判が相次いだ。二日後に出た仮判決も「公開データに信憑性なし」とした。判決後には、DBV、ドイツ女性農業者同盟(div)からグリンピースへの厳しい批判が寄せられた。反GM派であるカソリック協議会からもだ。「十分でない情報を流して正しいリスク・コミュニケーションを阻害した」「現在緊急に必要とされている農業上のバイテク使用に関する論議をかえって妨げた」とか、「意図的な情報操作はグリンピースの評判を落とすのでやめるべき」等々。
つまりグリンピースは、自らが有利になるように勇み足を踏んだというわけだ。しかし‥‥続く
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