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遺伝子組換え作物の栽培に関するモデル条例案

古賀 真子

条例の策定に当たっての基本姿勢

(1) 遺伝子組換えなどバイオテクノロジーの研究開発は、健康や環境に対する有害な影響の可能性が認められ、市民の遺伝子組換え食品に対する強い不安感、拒否感は法的保護に値することから、県は科学的根拠が必ずしも充分でない場合でも危険を予防する観点から必要な措置をとる責務がある。(予防原則の明確化)
(2)住民には地場の作物を守り、遺伝子組み換え作物の作付けがなされないように情報提供を受ける権利がある。また、意図せざる交雑により汚染されない権利を有する。特に栽培有機農家や自家採取農家などの生産者は、遺伝子組換え種子のこぼれ落ちや遺伝子組み換え作物の栽培による、交雑により汚染が生じた場合は汚染者に対して責任を追及できるとする。(遺伝子組み換え作物の栽培についての知る権利・汚染されない権利の明確化)
(3)この反面、遺伝子組み換え作物の交雑により被害を与えた遺伝子組み換え作物の開発者、輸入業者、流通業者、栽培者などには汚染者としての責任が生ずる。
これらの者が汚染を行うことがあらかじめ明らかな場合は、市民は事前に汚染防止のための民事上の差し止め行為と行政に対する是正措置を求めることができる。また、汚染者が他の原因による汚染であることを証明できない場合は汚染者に対して民事上の損害賠償責任を追及できる。(汚染者賠償責任と行政の責務)
(4) 遺伝子組換え作物の商業栽培は原則禁止。開放系での試験実験については、知事の許可行為とする。知事は許可を与えるに際しては、「遺伝子組み換え作物栽培試験にかかる評議会」を開催し、栽培者は消費者や生産者など市民に対する情報提供と合意がなければ試験栽培を行ってはならない。(商業栽培の禁止と試験栽培について知事の許可制の導入)
(5)以上に違反した場合は罰則を科する。(罰則の制定)

条文 遺伝子組み換え作物の栽培に関する条例

第一章 総則
(目的)
第1条 この条例はカルタヘナ議定書第T条の目的である、「環境及び開発に関するリオ宣言の原則15に規定する予防的な取組み方法」に従い、生物多様性に悪影響を及ぼす可能性のある遺伝子組み換え生物の移送、取り扱い及び利用には、人の健康に対する危険も考慮した十分な水準の保護を確保することから、予防原則に基づき、県内における遺伝子組換え作物の栽培に関する事項を定め、商業栽培を禁止すると共に、試験栽培や遺伝子組換え種子のこぼれ落ち等による遺伝子組換え作物と一般作物との交雑を防止し、遺伝子組換え作物の栽培に係る、栽培者等の責任と、自治体の責務を明らかにすることにより、遺伝子組換え体の使用によって生じる生物多様性への影響を防止し、地場の農業を守り、消費者と生産者の食や環境に対する安全を確保することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、遺伝子組み換え作物とは、組み換えDNA技術を利用して作られた作物をいう。
2 この条例において栽培者とは、自ら栽培する者の他、開発者、生産者、生産者から委託をうけて遺伝子組み換え作物を栽培する者をいう。
3 この条例において商業栽培とは、遺伝子組み換え作物の収穫物を販売をする目的をもって栽培する場合及び、試験栽培として栽培された遺伝子組み換え作物が収穫後販売に供された場合をいう。
4 この条例において試験栽培とは商業栽培以外の栽培をいう。
(予防原則)
第3条 遺伝子組み換えなどバイオテクノロジーの研究開発は、健康や環境に対する有害な影響の可能性が認められることから、科学的根拠が必ずしも充分でない場合でも危険を予防する観点から県は必要な措置をとることができるものとする。
(基本方針)
第4条 遺伝子組み換え作物の作付けに関する安全性の確保は、安全の確保に関する情報の公開及び協議を通じて、県、県民及び栽培者、農業団体等がそれぞれの取組について相互に理解し、協力することにより行われなければならない。
(県の責務)
第5条 県は、遺伝子組み換え作物の作付け等に関する安全性の確保については第三章に定めるところにより安全の確保に関する施策を総合的かつ計画的に推進する責務を負う。
(栽培者の責務)
第6条 栽培者はこの条例の第二章の規定を遵守しなければならない。
(商業栽培の禁止)
第7条 遺伝子組み換え作物の商業栽培はこれを行ってはならない。
(知事の指導)
第8条 知事は、栽培者が商業栽培もしくは許可なく遺伝子組み換え作物の試験栽培を行うおそれがあると認めるときは、栽培者に対して、指導、勧告をすることができる。
(知事の処分)
第9条 知事は前条の場合において、栽培者が遺伝子組み換え作物の栽培を行った場合は、栽培者に対して、当該遺伝子組み換え作物の除去を命令することができる。
2 知事は前項の命令をしようとする場合において必要があると認めるときは、あらかじめ栽培者から事情聴取を行わなければならない。
(代執行)
第10条 知事は前条の規定により措置命令をうけた栽培者がこれを履行しないときは、行政代執行法(昭和23年法律代43号)の規定により、自ら当該遺伝子組み換え作物を除去し、又は第三者にこれを行わせ、その費用を栽培者から徴収することができる。
(試験栽培の規制)
第11条 遺伝子組み換え作物の試験栽培は、この条例の第二章の規定によらなければ行うことができない。
(県民の権利)
第12条 県民は、遺伝子組み換え種子のこぼれ落ちや、栽培による遺伝子組み換え作物との交雑により農作物を汚染されない権利を有する。
2 県民は、遺伝子組み換え作物の作付けがなされないように情報提供を受ける権利がある。

第二章 遺伝子組み換え作物の試験栽培の規制
(試験栽培の許可)
条13条 遺伝子組み換え作物の試験栽培を行おうとする栽培者は、あらかじめ、知事の許可を受けなければならない。
(許可の申請)
第14条 栽培者は、許可申請の際は申請書と共に、第16条の書類を添付しなければ、許可の申請を行うことができない。
2 許可のための申請は、栽培を実施する60日前迄に行なわなければならない。
(許可の対象)
第15条 許可の対象は県内の試験研究機関や企業が開発した遺伝子組み換え作物の栽培試験に限定する。
(周辺への情報提供報告書)
第16条 栽培者は、ほ場周辺の地域住民及び県内在住の希望者に対して少なくとも3回以上、栽培計画書に基づき、情報を提供し、生産・流通上の混乱を招かないよう、農林水産省が定めた「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」に準じて隔離距離をとるなど、周辺農作物との交雑や収穫物の混入防止等の措置を講じたことを証明する「情報提供報告書」を作成しなければならない。
(遺伝子組み換え作物栽培試験にかかる委員会の設置)
第17条 県における遺伝子組み換え作物に関する施策について、知事の諮問に応じて調査審議するため、知事の附属機関として、「遺伝子組み換え作物栽培試験にかかる委員会」(以下 委員会という)を設置する。
(委員会の構成)
第18条 遺伝子組み換え作物栽培試験にかかる委員会は、試験栽培を監視し、第1条の目的を達成するために知事の諮問に対して答申を行う。
2 委員会は、○人の委員をもって構成され、必要のある場合は随時委員を置くことができる。委員は以下の中から、知事がこれを任命または委嘱する。
@住民委員 住民委員には、試験栽培によって影響を受ける者を2人以上を選任する。住民委員の数は全委員数の2分の1以上とする。
A専門委員 学識経験者、遺伝子組換え実験または同分野の科学知識に通じる者1人。住民の推せんする学識経験者は住民委員とする。
Bその他委員 行政機関および農業団体、消費者団体、生活協同組合等からの代表委員
3 委員の任期は2年とする。補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。但し再任を妨げない。
4 委員会は、委員長1人、副委員長2人を置く。
(委員会の開催と招集)
第19条 委員会は、毎月開催する定期委員会と、必要に応じて開催する臨時委員会とする。
2 委員は、目的である事項を記載した書面により、臨時委員会の開催を委員長に求めることができる。3人以上の開催要求があった場合、委員長は委員会を招集しなければならない。
3 委員会の定足数は総委員の2分の1とし、議決は出席委員の3分の2とする。可否同数の時は委員長の決するところによる。
4 委員会の議長は、委員長がこれにあたる
5 委員会の議決について、特別の利害関係を有する委員は、委員会の議事の議決に加わることができない。
(委員会の権限と職務)
第20条  委員会はこの条例第1条の目的を達成するため、申請にかかる試験栽培を許可すべきかどうかに関する知事の諮問に対して答申を行う。
2 委員会は遺伝子組み換え栽培に関するすべての提案について、条約、法令、条例、指針およびその他の規則に違反するかどうかを審議する。
3 本条例に従って栽培者が作成した許可申請書に対して、手引書、職員の訓練計画、安全計画ほか監視計画が適切であるか否かを審査する。
4 委員会は必要に応じて関係行政機関による公聴会を要求する。
5 委員会は試験栽培を許可した後も、必要に応じて、施設に立入り現地調査を行ない、条例の実施を有効ならしめるよう報告を求め勧告を行なうことができる。
6 委員会の会議の議事録は、公開されなければならない。

第三章 県の責務
(知事の責務)
第21条 知事は、栽培者から第6条の規定に基づく許可申請を受理した場合は、速やかにこれを委員会に付託しなければならない。
2 知事は、遺伝子組み換え作物の栽培許可を行った場合は2週間以内に、市町村や消費者団体、農業団体などの関係機関及び関係団体などに周知させ、これらの団体と連携及び協力しながら監視行為を行うことを要する。
3 知事は、遺伝子組換え作物の栽培計画を事前に把握するため、市町村や農業団体等の協力を得ながら、常に栽培者に対する情報の提供を求めこれを公開しなければならない。
(知事の調査権限等)
第22条 知事は、遺伝子組み換え作物の栽培に関して、関係市町村および農業団体の協力を得て、速やかに実態を調査する権限を有する。
2 知事は、前項の報告等を受けたときは、速やかに当該報告の内容を県民に公開しなければならない。
(知事の指導権限)
第23条 知事は、この条例に反する栽培が行われた場合には、速やかに栽培状況等の調査を行うとともに、栽培終了後においては、栽培者をして栽培状況ならびに交雑・混入防止に関して講じた措置を求めなければならない。この場合の措置は第9条、第10条の規定を準用する。

第四章 県民の権利及び責務
(県民の権利)
第24条 県民は遺伝子組み換え種子のこぼれ落ちや栽培による遺伝子組み換え作物との交雑により汚染されない権利を有する。
2 遺伝子組み換え作物の開発者、輸入業者、流通業者、栽培者等は、汚染が他の原因によるものであることを証明できない場合は、有機農家や自家採取農家などの生産者等、遺伝子組み換え作物の交雑により被害をうけた者に対して損害賠償責任を負う。
3 遺伝子組み換え作物の開発者、輸入業者、流通業者、栽培者等が汚染を行うことが明らかな場合は、県民は事前に汚染防止のための差し止め行為と行政に対する是正措置を求めることができる。
(県民の役割)
第25条 県民は、遺伝子組み換え作物の作付けに関する施策について意見を表明するように努めることによって、食や環境の安全の確保に積極的な役割を果たすものとする。
2 県民は、食品及び環境の安全の確保に関する県の施策に協力するよう努めるものとする。

第五章 罰則
(罰則)
第26条 第19条第1項の知事の調査権限規定に違反し、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による調査若しくは物件の提出を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、20万円以下の罰金に処する。
第27条 第7条(商業栽培の禁止)、第11条(試験栽培の規制)に違反した者は2年以下の禁固、100万円以下の罰金に処する。
(両罰規定)
第28条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同条の罰金刑を科する。

第五章 雑則
(委任)
第29条 この条例に規定するもののほか、この条例の施行について必要な事項は、規則で定める。
附則 (施行期日)

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