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市民セクター政策機構

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1.山形県庄内地方「共生経済」を地域で回す!(庄内FEC自給ネットワーク)

季刊『社会運動』 2016年10月【424号】 特集:地域自給で生きる 

Food[食料]の領域
─地域内資源循環の試み


 庄内でFEC自給ネットワークがどのように動きだしているのか、F(食料)の領域から見ていくことにしよう。平田牧場の新田さんは生産者同士の様々な連携を語る。「庄内の地域内における様々な資源循環の仕組みづくりは、歴史もあり、かなりの水準に達していると思います。例えば、飼料用米の養豚への活用にとどまらず、糞尿や農産物の廃棄物を堆肥化して農家に使ってもらう。あるいは農家が加工用米や大豆などの原料を生産して地元の加工業者に供給する。廃食油を使用したバイオディーゼル燃料の生産なども行っています。
 将来は、庄内特産の総菜や調理品を製造する事業などを地域全体で考えて、生産者が共同で参加・運営できるような方法も考えなければいけないと思っています」
 庄内地方における食料生産力は高く、国内でも優れた産地であることは一般的にも認知されている。米をはじめとして、農産物、果実類、海産物など豊富な生産力をどう生かすのかが、庄内協議会(準備会)の大きな課題だ。生産者が連携して、生産・加工・製造・販売・配食などを一元的に管轄する事業体を作り出すことも構想中だと言う。
 ただし気になるのは、生産者の高齢化と後継者不足の問題だ。たとえばJA庄内みどりには、現在どのくらいの組合員がいるのだろうか。遊佐営農課の課長の那須耕司(なすこうじ)さんが答えてくれた。
「生活クラブと一緒に開発した米を作る生産者は少し前まで500人弱でしたが、ここ数年で450人を割っています。その背景には、地域全体の『人口減少』という問題があります。遊佐町の人口は、2016年7月現在で約1万5000人ですが、このままでは2040年には7500人程度になってしまうと予測する見方もあります」
 ここで庄内の「人口減少」問題に触れてみる。2014年5月、「日本創成会議」(日本生産性本部が発足させた民間の会議体)が出した人口予測が話題になった。日本の自治体の半数近くにあたる896市町村が2040年には自治体機能がなくなってしまうというデータを示したのである。この予測によれば、20〜39歳の女性人口が、この30年間で半数未満に減少してしまう市町村は、将来子どもが減少し、自治体としては消滅するかもしれないと指摘し、「消滅市町村」と呼んでいる。
庄内地方は、酒田市、鶴岡市、庄内町、三川町、そして遊佐町の市町村から成り立っているが、すべてが「消滅市町村」になると予測され ているのだ。
 JA庄内みどりでは「農業人口の減少」にどう対処しているのだろうか。那須さんは次のように語る。
「私たちが実施している対策の一つが生産構造改革です。遊佐町では今年1月に三つの農業生産法人が生まれました。法人の規模は50 人から100人くらい。協同で農業を行うことで、新たな後継者が生まれてくれればと思っています。今、農業生産法人で働いているのはほとんどが地元の農家ですが、都市から移住してくる人のことも考えています。IターンやUターンの人を応援する事業です。その一つが『チャレンジファーム』の仕組み。まずは1年間、農家で研修し、次の年から自立してもらうという支援策です」
 このように新たな農業経営の形を模索しているJ A庄内みどりにとって、FEC自給ネットワークはどのような意味があるのだろうか。 「正直な話、まだ始まったばかりです。それでも、このプロジェクトは将来、大きな意味を持つだろうと期待しています。2018年には、『農政大転換』が行われる予定です。国は、これまでのような米の生産調整から一切、手を引き、米の需給調整を市場に委ねるという のです。ですから今後は、これまで以上に消費者との提携を大切にしなければいけない。国が米の生産と価格に影響を発揮しなくなった時、FEC自給ネットワークは大きな意味を持ってくると思っています」
 国主導の生産調整がなくなり、さらにはTPP合意に基づく輸入米が増加すれば、日本の農業はいよいよ崖っぷちに立たされる。弱肉強食の市場に対抗するためには共生セクターの形成が必要であり、その具体化がFEC自給ネットワークなのである。


(P.40~P.43 記事から抜粋) 34-35

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