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第4回「福島の農家の怒りの声をとどろかそう!(芸人・記者 おしどりマコ)

季刊『社会運動』 2016年10月【424号】 特集:地域自給で生きる 

 さて、みなさん、農家の方々の政府交渉、各省庁、東京電力への申し入れって、どんな内容だと思います? 賠償のこと? 風評被害対策? 復興に向けて? ニュースや報道ではそういうことがよく取り上げられているよね。一言でいえば、農民連の方々の申し入れは「現状の汚染を、農家の状況を知ってほしい」です。それを踏まえての賠償、被ばく防護の対策を、と。
「年20ミリシーベルト(mSv)以下は、避難指示を解除して帰還」の撤回も、申し入れの一つ。
「原発事故前、一般公衆は年に1mSvまでという法規制だったのに、なんで福島県民だけ20mSvまで大丈夫、となり帰還せよとなるの!?」
「あのね、そういうところに帰ってね、一番、被ばくするのは、俺たち百姓なの、わかる?」
 これは何度も何度もいろんな方が大声でおっしゃってました。
「俺たちは地べたで、土を触って毎日仕事してんの。飲食はだめ、たばこも吸っちゃいけない、長袖を着るように、18歳以下は作業させてはダメって指示の紙がきて、農業やってんの。危ないことやらせてるってわかってるんでしょ?」
「放射線管理区域となるところに、俺たちは帰れって言われてんの。今もそういうとこで農業やってるの。俺たちの健康管理は誰がしてくれるの?」
 避難解除の区域でなくても、避難指示が一切、出なかった地域でも、土壌が汚染されているところはあちこちにあります。放射性セシウムが、農作物に移行しないように、農地にカリウムを撒く、という方法があります。セシウムとカリウムは性質が似ているので、土壌にセシウムよりカリウムがたくさんあれば、農作物はセシウムではなくカリウムを吸収するから、農作物に移行する放射性物質を低減できるという方法。あと、農地にゼオライトを撒くというやり方もあります。粘土鉱物のゼオライトは放射性セシウムをよく吸着するので、農作物に移行する放射性物質は低減するという方法。これは、私は2011年から取材をしていて知っていたはずなんだけど。
「あのね! 畑にカリウム撒いて、ゼオライト撒いて、確かに作物に放射性物質は入んないよ、でもさ! 土にはそのまま放射性物質残ってんだよ! 作物にいかないだけなんだよ! 国はさ、カリ撒け、ゼオライト撒けつって、俺たちやってるけどさ、俺たちは毎日、土を触って、被ばくしてるんだよ」
 この怒号を聞いたとき、私は唇をかみました。あああ、思い当たらなかった。確かにそうだ。放射性物質が農作物に移行しないようにする研究はたくさんあるけれど、農家の方々が被ばくしないような対策は??
 経産省は「電離則(電離放射線障害防止規則)の、一般公衆が年1mSvや、電離健診、放射線管理区域というのは、原子力の事業者が労働者を被ばく・防護・管理するための法律です。ですので、原発事故後の環境中には当てはまらない法体系です」。そうすると、農家の方がお一人、すっくと立って質問しました。
「あのな。農家が自営だけと思ってないか。農家にも法人あんだ。農業法人や、事業として農業をやっていたら、労働者を雇用していたら、その法律は、電離則は関わってくるんだな?」
 そうすると、20人ほど並ぶ省庁の方々は誰も答えることができず、「そのご質問は持ち帰らせていただいて、後日回答します… 」。

 4月のこの質問は、9月の政府交渉で、厚生労働省から回答されました。
「電離則が、農家の労働者に適用されるか、というご質問をいただいておりましたが、今回の関係では適用されます。農業法人の事業者は、労働者に対して、健康管理、被ばく管理する義務が生じます」
マジか 


(P.161~P163 記事から抜粋) 159

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