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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

企業と家庭は激変し若者は貧困を強いられた(NPO法人ほっとプラス代表理事 藤田孝典)

季刊『社会運動』 2017年4月号【426号】20年後、子どもたちの貧困問題 格差社会を終わらせよう

 

食えない非正規雇用か、長時間労働に耐える正社員か

 

─NPOほっとプラスには、どういった相談が寄せられていますか。

 

 労働基準法を無視して長時間労働やサービス残業を強いるブラック企業に就職してし

まったという相談、非正規雇用の問題、あとはうつ病の相談が多いです。ブラック企

業には、IT企業が多く、この業界では30歳定年と言われるくらい、労働者は短い期間

の中でこき使われます。残業時間が月百数十時間を超えるのは当たり前です。電通社

員の過労自殺が問題になりましたが、社会の中で長時間労働があまりにも常態化して

いるので、労働者はそれが普通だと思って、我慢して耐えている状況です。

 そんな環境に身を置いた人は、20代前半の頃はまだなんとかなりますが、30歳に近づ

いてくると、そうはいかなくなってきます。ふと気づくと、朝起きられないとか、誰

とも会いたくないという状態で、いつのまにかうつ病になっているのです。心身を壊

してしまった結果、遅刻や無断欠勤が続き、解雇されるというケースが結構あります。

 会社をやめたのをきっかけに引きこもりになったという相談も目立ちます。職場でパ

ワハラを受けたり、長時間労働だったり、いろいろな要因がうつ病を発症させ、仕事

が続けられなくなる。うつ病の相談はリーマンショック以降、多くなっているなとい

う実感があります。企業が本当に厳しい時代に突入したのです。

 非正規雇用の問題は、とにかく収入が少なくて、食べることもままならないという相

談が多いです。つまり、非正規で食えないか、正社員だがうつ病のリスクを抱えなが

ら長時間労働に耐えるか、というのが現代の若者の労働状況です。そしてブラック企

業ほど極端ではありませんが、多くの企業が過酷な労働条件になっています。

 しかし、若者の親の世代にあたる人たちの多くは、労働者を取り巻く環境の変化を理

解できません。だから、劣悪な労働環境によって、長い間同じ職場に勤続することが

難しく、転職を繰り返す子どもに、「頑張って働けば報われる。我慢して働き続けな

さい」と言ってしまう。また、「石の上にも3年」あるいは10年と言って子どもに説教

したりする。しかし、今の企業では、頑張っても10年間給料が変わらないのが現実で

す。

 このような親の世代の勘違いには次のようなものもあります。

「もし働けなくなっても、若者には父母や祖父母がいるから、多少お金に困っても家

族が手を差し伸べてくれるだろう」という認識です。それは幻想です。今や家庭も厳

しい社会状況に立たされていますが、親の世代にはそれが見えない。

 上の世代ばかりではありません、行政もそんな幻想を持っています。NPOほっとプラス

では、生活に困窮した若者の相談を受けて、年間何十件も生活保護の申請に同行しま

すが、そのたびに福祉事務所の職員から「頼れる家族はいませんか」と必ず聞かれま

す。しかし、家族が助けてくれた事例は一件もありませんでした。

(P.42~P.44記事から抜粋)

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