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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

貧困対策に必要なのは連帯への意識変換(首都大学東京教授 阿部 彩)

季刊『社会運動』 2017年4月号【426号】20年後、子どもたちの貧困問題 格差社会を終わらせよう

子どもの相対的貧困率

─では、子どもの貧困は現在どのような状況なのでしょうか。

 

 子どもの貧困の手がかりとなる確かなデータは、行政が行っている就学援助の受給率

です。低所得世帯の子どもの学用品や修学旅行費など義務教育にかかる費用を国と自

治体が支援する制度です。所得制限があり、一人ひとりの申請を役所がチェックして

いるので、信頼性の高いデータです。この割合が1995年度には、公立小中学校に通う

子どもたちの6・1%でしたが、受給数が急増し、2010年度頃からは15%以上で高止まり

した状態が続いています。

 そして一番よく使われているのが、子どもの相対的貧困率(注)です。グラフを

見ると、この数値も1985年度の10・9%から、2012年度には16・3%まで上昇しているこ

とがわかります。

 子どものいる世帯の平均所得は600万円以上ですが、母子世帯などの貧困世帯では、二

人世帯で年間所得が約180万円以下です。その生活水準で暮らす子どもたちが6人に1人

いるということです。子ども期の貧困は、その後の人生にも大きな影響を及ぼします。

貧困層の子どもは、学力や学歴が低く、健康状態も悪い傾向にあるため、大人になっ

ても貧困であるリスクが、そうではない子どもに比べて高くなります。子ども期の貧

困は、成人となってからの賃金や生産性を低くするので、社会経済全体にも大きな損

失となります。高齢者の貧困ももちろん問題ですが、子どもの貧困はその社会的イン

パクトという点でより大きな問題なのです。

 ユニセフの推計(2012年)によると、日本は先進20カ国中4番目に子どもの貧困率が高く、

国際的に見ても子どもの貧困率は決して低くありません。また日本の貧困の特徴は、

働いても働いても豊かになれない「ワーキング・プア」が多いことであり、その背景

には巨大な低賃金の労働層が存在しています。

 

注 相対的貧困は、「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割っ

て調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯員」のことをいう。この割合を示すも

のが相対的貧困率である。

 

 

20年後、高齢化がさらに進み、私たちの子どもが迎えるリスクはどのようなものでしょ

うか。

 

 もちろん高齢化も子どもの貧困に影響があります。このままでは医療費が増加し、財

政赤字になり、どんどんサービスが縮小していきます。20年後、今の高校生や大学生

40代になった時には、社会保障がほとんどない社会になっているかもしれません。

財政赤字を借金で穴埋めすると、借金返済が膨らみ、社会保障への財政支出が少なく

なるので、さらに生活が苦しくなっていきます。そのため過剰な自己防衛に走り、格

差が広がり、犯罪が増えます。20年後は、その悪循環が展開している可能性があるか

もしれません。日本は格差が大きい割には、社会的な分断があまり見られませんし、

犯罪もそこまで拡がっていません。しかし悪循環に陥る前に、私たちは大きな意識の

転換をして、一番の大きな問題の元である財源問題を解消する必要があるのです。

 日本は、ヨーロッパ諸国と比べると、自分のお金は自分のものという意識がすごく強

いので、税の累進性も低く、社会保険料は非常に逆進的です。そんな状況で財源を確

保するためには、何よりも連帯する、助け合う意識が必要なのです。

子どもへの教育投資のために、高齢者医療の自己負担金を増やしたり、年金を減らし

たり、みんなでもう少しずつ税金を払ったりする痛みを伴う改革をするしか解決策は

ありません。高齢者の貧困率も決して低くないので厳しい状態です。しかし団塊の世

代にも、我慢するところがなければ、どうしようもありません。

ただ子どもの貧困に投資しましょうと言っても、埋蔵金や余剰金など夢物語のような

財源を当てにするようでは結局何も進みませんし、責任放棄です。

みんな厳しい中で、一人ひとりが歩み寄って、「ここまでは負担しましょう」と打ち

出さなければ、社会保障の制度は崩れていくでしょう。本当はこれらのビジョンを政

治家が示すべきだと思うのですが、政治家は負担が増えることについては言いません

し、そういう政治家を選ぶのは国民ですから、その責任は私たちにあるわけです。

 

(P.86~P.88、P.98~P.99 記事から抜粋)

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