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被害児の家族としての体験から被害者支援を行う(MMR被害児を救援する会 栗原 敦)

季刊『社会運動』 2017年7月号【427号】特集:ワクチンで子どもは守れるか?

おたふく風邪のワクチンを接種した息子の副作用被害

 

 私の長男は現在38歳ですが、4歳半ばだった1983年の12月の初め、翌年の幼稚園入園に備えておたふく風邪のワクチンを受けさせました。

 このワクチンは1981年1月頃に、国産のおたふく風邪ワクチン第一号として大阪の阪大微生物病研究会(阪大微研)が作り、田辺製薬(現・田辺三菱製薬)が販売していました。阪大微生物病研究会は戦前から名の知れたワクチンメーカーです。おたふく風邪のワクチンは当時も今も任意接種なのですが、ワクチンが出たことが近所のお母さんたちの間でも話題になり、大きくなってからかかると症状が重いとか、子どもができなくなる……といった話になって、だったら打っておこうかということで接種したのだと思います。当時の私たち夫婦は、何の知識もない中で「きっと予防効果のある、よいものだろう」と考えて打たせてしまったのです。

 おたふく風邪ワクチンを接種した2週間ぐらい後に、それまでなかった39℃台の発熱が数日続きました。近所のかかりつけの病院で風邪の処置をしてもらい、いったん熱が下がった息子は外へ出て遊び回るほどになりました。息子とその妹を連れていた妻が振り返ってみたら息子の姿がない。探してみると近くの道路脇の草むらに倒れて口から泡が出ていました。隣のおじいさんが車で近くの救急病院に運んでくれました。多分それが最初のてんかん発作だったと思います。ワクチン接種後18日目のことでした。

 その日から翌朝まで何度も発作が出ました。夜から私が付き添っていたのですが、発作の時に、舌をかまないように自分の指を口に入れたところ、すさまじい力でかまれ、驚きました。数日後にてんかんの診断が下り、息子と私たちの長い闘病生活が始まりました。

 現在は重度の知的障害と身体機能の障害も合併して、「療育手帳A」「身体障害者手帳1級2種」を持っています。てんかんは難治性で発作は解消していません。しかし毎週末に周期的にてんかんの発作がありますが、薬で調整していることもあって平日は近くの施設に通うことができています。

 息子が受けたおたふく風邪のワクチンがどんなものであったか、のちに少しずつわかってきたのですが、その時はどうしてこんなことが起きたのかと混乱するばかりでした(おたふく風邪ワクチンにはどんな副作用があるのか、ここに資料(表1)があるので見ていただきます)。

 

被害の救済を申請、国が因果関係を認める

 私たち夫婦は、幸いにも主治医の協力を得て丸2年という時間を準備にあて、被害の救済を申請しました。申請期限はわずか2年しかありません。発病して最初の受診から2年を過ぎるとそれ以前の副作用による医療費、医療手当ての請求ができなくなるのです(現在は被害者団体の要求が実現して5年以内に改善されています)。

 2番目の主治医との出会いが救済への道を拓いてくれました。ワクチン接種後の髄膜炎症例を国内で最初に日本小児科学会近畿地方会で発表した京都大学小児科の西角淳先生でした。その診断によると、息子はおたふく風邪のワクチン接種後に髄膜炎か脳炎を起こし、その後にてんかんが残ってしまったのだろう、接種との関係を否定する根拠は何もないとのことでした。

 その診断書をもらって、最初に診た医師、接種した医師などかかわってくれた医師を回りました。2番目の主治医が息子の状態については一番専門的な知識と経験を持っているため、他の医師もみなさん同じように書いてくれ、それらを添えて申請を行いました。それから8カ月後の1986年、厚生大臣はおたふく風邪のワクチンとの因果関係を否定できないとし、100%ではなかったのですが救済の決定が下されました。

 薬害スモン事件(注1)の解決段階において1979年、「医薬品副作用被害救済制度」が法制化され、薬の副作用被害の救済制度に注目が集まっている時期だったこともあったのでしょう。この制度が息子に適用され、比較的スムーズに関係を認められ、後に一番重い障害年金1級を受給、現在に至っています。

 87〜89年にかけて大阪の簡易裁判所に、阪大微研・田辺製薬との「損害賠償請求の調停」を申し立てました。その結果、見舞金200万円が支払われました。しかし、それが決着した直後の89年4月から、MMRワクチンの接種が始まったのです。

 

注1 1960年代に発生した、整腸剤に含まれたキノホルムを服用したことによって起きた薬害事件。

(p.49~P.52記事から抜粋) 

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