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03.<ふらっとスペース金剛>安心して私らしくいられ場所を求めて

季刊『社会運動』2017年10月【428号】特集:空き家で街を元気に―困った住宅・店舗の活用方法

 南海電鉄高野線金剛駅からほど近く、大阪府南部の富田林市にあるUR金剛団地に隣接した戸建て住宅が立ち並ぶ一角に、NPO法人ふらっとスペース金剛(以下ふらっと)はある。庭付き鉄骨コンクリート2階建ての堂々とした建物だ。代表の岡本聡子さんは、「I am OK, You are OK, We are all OK!」と書かれたスタッフTシャツで、目印のキリンの看板とともに出迎えてくれた。

活動の目的に家主の理解が得られた

 ふらっとは、親と子の居場所としての「つどいの広場事業(富田林市)」、「一緒に子育てヘルパー事業(養育支援訪問事業・富田林市、太子町、千早赤阪村)」など行政からの子育て支援委託事業とともに、自主事業として夏休み等長期休暇での学童保育「寺子屋」や、「子どもわくわく探検隊」といった子どもの育ちを応援する事業、そして、女性のエンパワメント事業に取り組んでいる。
 2003年のふらっとの立ち上げには、岡本さんが活動していた生協の子育てサークルと、かつてこの民家を活用していた地域の福祉グループ、行政の女性支援の講座修了生のグループの三者の出会いがあった。グループの成り立ちも、年齢層も、目的も違うメンバーが集まって話し合ううち、「自分たちの居場所を作りたい」という思いが募っていった。「私たちは居場所が欲しかっただけで、探し回ったあげくご縁をいただいて借りられた」のだと岡本さんは言う。
 「不動産屋を何軒も回りましたが、住む以外の目的で物件を貸し借りするという発想が、まず、ないのです。でも私たちがラッキーだったのは、活動の目的に賛同してくれた人たちとの縁で、家主さんの理解が得られたことでした。家主さんとしても不動産屋に出せるような物件ではなかったわけです。不動産屋を通していたら、更地にするなり、建物を改修するなりに相当な投資が必要だったはず。荷物もそのまま置いてあって家主さんも『困ったな、どうしよう』という状態だったと思います。
 家主さんは管理に困っていた、私たちはきれいでなくていいから安く借りられる場所が欲しかった。それぞれの希望が折り合ったところで、家主さんの荷物は置いたままそのまま使うこと、改修は自分たちですること、などを直接話し合って約束できました。そこに不動産屋が入っていたら、こうならなかったでしょうね」
 さらに心強いことに、岡本さんが参加していた子育てサークルや地域の福祉グループの活動を応援していた生協エスコープ大阪の後押しもあった。家主との話し合いはすすんでいたものの、法人格のないふらっとが契約者になることは難しかったため、2004年にNPO法人を取得するまで、生協が契約主体になってくれたのだ。家主と借主の直接交渉、家主の荷物を置いたまま借りること、不動産のまた貸しなど、業界では考えられないことの連続だった。
 いまでは行政の委託事業収入があり、事業もある程度、安定しているが、もともとは「自分たちの居場所が欲しい」という思いで始めた活動なので、ふらっとの参加メンバーは報酬をもらうどころか月5000円ずつ出し合っていた。はじめに8万円に設定された家賃も、事業収益がなかった時期には、5万円、3万円と払える額への値下げにも応じてもらえた。家主との信頼関係に基づく直接交渉ならではのことだ。

(P.81~P.83記事から抜粋)

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