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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

2.保養という選択肢を用意する意味(疋田香澄 リフレッシュサポート代表)

季刊『社会運動』2018年1月【429号】特集:あれから7年、福島の現実

国の制度に位置づけがない保養

─保養のニーズが高いにもかかわらず、国や自治体からの支援がないのはなぜですか。

  2012年6月に子ども・被災者支援法が成立したときには、保養支援もスムーズにいくのではないかと期待していた人が多かったのですが、そうはいきませんでした。いまでは帰還をすすめるのが国の方針なので今後の公的支援もあまり期待できません。唯一の公的な補助金は「ふくしまっ子自然体験・交流活動支援事業」のみとなっています。しかしこの支援事業は、あくまで「自然体験活動」のための補助金であること、福島県内の団体が申請主体であることや、実施日数が6泊7日以上であることなど、さまざまなハードルがあり、十分には活用されていません。チェルノブイリの原発事故では、ウクライナ政府に「保養庁」が設置され、子どもたちを積極的に保養させるために公的な支援を行っています。なぜこんなにも向き合い方が違うのか。ウクライナのほうが食べ物の汚染などの実態もひどいのかもしれません。事故を起こしたのが崩壊したソ連で、ウクライナやベラルーシ政府の責任ではないことも理由かもしれません。けれども日本では原発事故に限らず、責任の所在を曖昧にしてしまう傾向があります。原発事故も国の原子力政策や東電のせいではなく津波のみが原因、と言われれば多くの人が納得してしまいがちです。

 公的な支援を受けられないため、受け入れる側も長年のうちに疲弊してきています。私自身、東京で福島の電気を使って生活していたことを福島原発事故の後で強く意識するようになり、フルタイムで仕事をしながら大勢の人と協力してボランティアで支援を続けてきました。しかし私たちも受け入れ団体も資金不足、人手不足で支援を続けるのが難しくなっています。16年6月には国と福島県に対して、子ども・被災者支援法に基づいて保養を国の制度に位置づけ、当面は保養プログラムに公的支援をしてほしいとの要望書を出しました。現在の状況では保養団体に支援を求めざるを得ないのですが、本当は保養を制度にして当事者自身が権利として交通費の補助などを受けられる形が理想です。先の見えない状態で息の長い支援を続けていくには、ボランティアの「善意」だけでは限界があります。

(P.28~P.30記事から抜粋)

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