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2.甲状腺検査からみた子どもたちへの影響(崎山比早子 医学博士)

季刊『社会運動』2018年1月【429号】特集:あれから7年、福島の現実

「知らない権利」がある!?

 

 県立医大の山下俊一医師は、13年3月、甲状腺検査受診者のうち1割ほどの診断しか出ていない段階で、「福島県で甲状腺がんが多発しているが、これはスクリーニング効果だ」とアメリカの原子力機関のシンポジウムで発言しています。最初から、放射線の影響ではないことが前提となっていて、それ以外の結論はないという姿勢です。実際に甲状腺がんの発症が増えても、その見解を一貫して変えないのは恐ろしいことだと思います。

 また、山下医師の弟子の高村昇医師(長崎大学)も放射能の影響は心配ないと繰り返し発言しています。彼はチェルノブイリへ何回も調査に行っており、「福島とチェルノブイリではこんなに違う」という論文を発表しました。そこでは、「チェルノブイリでは0〜5歳児の甲状腺がんが最も多かったのに反し、福島ではこの年齢層の発がんが見つかっていない、またチェルノブイリで甲状腺がんの多発が顕著になったのは事故後4〜5年経過してからだ」と主張しています。しかし、チェルノブイリの場合、超音波機器が検診に用いられたのが事故後5年目からで、それまでは触診のみだったのです。ですから検査方法の違いも考慮されるべきですし、日本でも4歳児と5歳児の発がんがあります。チェルノブイリでも5歳児以下での発症は遅れて出ていますから、放射線の影響は考えにくいと早々に結論するのではなく、これからも検診を続けていかなくてはわかりません。

 17年9月に日本学術会議が出した「報告 子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題─現在の科学的知見を福島で生かすために─」にも様々な問題があります。健康への影響を危惧する親子を福島に帰還させようという意図が強く感じられるのです。報告には「患者や家族に寄り添う」という言葉が盛んに出てくる一方で、「個人の線量や影響に関する情報を知る・知らされることは、当人や家族の精神的負担になり得る」とも書かれています。この中で私がとてもおかしいと思ったのは「知らない権利への配慮」という文言です。個人にかかわる情報は本人や家族に開示されるべきで、知りたくなければその人が聞かなければ良いのです。「知らない権利」など、他者から言われるようなことではありません。

 福島では自分の病状を知りたい場合には情報公開請求までしなければなりません。これは他の県ではあり得ないことです。患者は自分の病状を知る権利があるのですから。また甲状腺がんの治療を県立医大と契約を結んだ病院以外で受けると県民健康調査の枠外になってしまい、19歳以後は医療費のサポートが受けられなくなります。これも同じ県民なのですから是非改善して欲しいという声があります。

 

孤立する患者と3・11甲状腺がん子ども基金の使命

 

 福島県や国、国連科学委員会(UNSCEAR)など国際機関は、福島で多発する甲状腺がんの発症は放射線の影響とは考えにくいという評価を変えません。それどころか、県や国は逆に放射線の影響を懸念することを「福島の復興の妨げになる」として、原発事故避難者の訴訟や、国内外の専門家会議、復興の現場などにおいて、様々な形で排除しようとしています。そうした中で、がん患者やその家族は声を上げられず孤立しています。若年者ががんに罹患することには、高齢者ががんになった場合とは全く異なる困難があることを知っていただきたいと思います。保護者が一緒に通院する必要があり、時間的・経済的な負担がかかります。また、進学や就職に支障を来たし、進路の変更を余儀なくされることもあります。若い女性では結婚や出産に不安を抱える方もいます。

 

(P.79~P.81記事から抜粋)

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