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4.土地と海、農産物・海産物の汚染状況(槌田 博さんに聞く 生活クラブ連合会 品質管理部部長)

季刊『社会運動』2018年1月【429号】特集:あれから7年、福島の現実

土地と海、農産物・海産物の汚染状況

 

槌田博さんに聞く

生活クラブ連合会 品質管理部部長

 

 生活クラブでは、東京電力福島第一原子力発電所の事故発生直後から、取り扱う食材の放射能検査を自主的に行ってきた。独自の放射能基準を設定して食べ物による内部被ばくのリスクを少なくするためだ。2017年8月までに10万件を超える検査を行い、情報公開している。

 全国と福島県の放射能汚染の状況について、生活クラブ連合会品質管理部部長の槌田博さんに聞いた。

 

山間部の放射能汚染は広範囲、今後も残り続ける

 

─農産物の中にはまだ放射能汚染により出荷が制限されている品目がありますか。

 

 野生のキノコや山菜は放射能による汚染度が高いと言われますが、それは3・11福島第一原発事故以降1キログラム当たり100ベクレルを超える放射能が検出されるものがしばしば見られるからです。野生のキノコだけでなく、ジビエといわれるクマやイノシシの肉など「山の物」すべてが多かれ少なかれ汚染されている可能性があります。図1の「野生キノコの出荷制限地域」からは福島県だけでなく、青森県から静岡県まで出荷制限地域が広く存在していることが分かります。

 放射能を含んだ空気が福島県だけでなく青森県や静岡方面まで風に乗って流れて行き、山にぶち当たった場所で落ちて、そこに溜まっています。静岡県は富士山にぶつかったわけです。山が汚染されたら草木を全て刈り取るしかないので、除染できません。ですから、今後何十年もずっと汚染が残ることになります。

 しかも、その山から汚染物質を含んだ泥が雨に流され、川に沿って海に流れ出し、東京湾のようなところに留まり高い濃度の汚泥になります。これも、そのまま放置するしかありません。国土全体の除染などできないことなのです。

 

全国的な視点での放射能検査はされていない

 

─全国の農産物の放射能検査はどのような体制になっていますか?

 

 放射能検査は都道府県の衛生研究所などがそれぞれ独自に検査対象として選んだ品目について行われています。図2のように、都道府県によって検査数にすごくばらつきがあります。福島県産の食品放射能検査数が一番多く、約24万件。栃木県が約20万件、宮城県が約19万件となっています。

 ただし、全国で約188万件の測定データのうち、牛肉が約133万件と7割を占めています。それは、事故があった2011年の夏に牛肉汚染が問題になり、牛肉業界が徹底した検査を始めたからです。牛肉を出荷しているところはほとんど検査を行っています。これに比べ、農産物は約20万件、豚肉は約4千件など、測定されている品目に著しい不均衡があります。結局、検査の目的は、各都道府県が「自分のところの農畜産物は汚染されてない」ということを言いたいがための検査だからです。だから、それぞれの都合で検査品目を設定し、検査をするという状況が続いています。このような検査体制の中で、1キログラム当たり100ベクレルを超えなければ、「放射能汚染による問題はない」と言っているだけです。

 それに対して生活クラブは、自分たちが供給している食品類すべてを独自に10万件以上も測定してきました。しかも、国の放射能基準値よりも厳しい自主基準値を定めています。ただし、検査の範囲は生活クラブの食材だけですから、そういう意味では偏りがあります。

 いずれにせよ各自治体まかせの検査体制では、今回の原発事故による放射能汚染で、どの場所のどの食品が汚染されているのかは分かりません。全国的な視点で日本の放射能汚染の検査を計画し、網羅的に状況を把握する司令塔がどこにもないのです。それがとても問題です。「本当に大丈夫だ」ということが行政レベルでは証明されていないと私は思っています。

 

(P.88~P.91記事から抜粋)

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