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【原発】
原発は武力攻撃に対して何の対策もない。
「原発を動かしながら自衛戦争をする」という主張はあまりにも無謀な客観論。

「日本の海岸に並んだ原発は仮想敵に引き金を握られた核兵器である(元原発技術者 小倉志郎)」

季刊『社会運動』2018年4月【430号】特集:改憲・戦争に反対する12の理由

原発は武力攻撃を想定して作られていない

 

─日本の海岸線に並ぶ原発が、核兵器はもとより通常兵器での攻撃や、それに伴う電源喪失に耐えられるのでしょうか。

 

 今、日本各地で行われている原発再稼働反対の訴訟において、原発が武力攻撃に耐えられるか否かが一つの争点になっています。原発はそうした攻撃には耐えられません。原子炉を覆うコンクリート造りの建屋は、ミサイルや、砲弾などに耐えられるように設計されていないので、簡単に突き抜けてしまいます。その中にある格納容器にしても、せいぜい30数ミリの鉄板でできていて、戦車ほどの厚さはありません。攻撃されて穴が空けば、もはや格納容器の機能を果たせなくなります。格納容器というのは、原子炉から放射性物質が漏れても、外には漏らさないようにするのが役目だからです。

 日本初の商業用原子力発電所として東海発電所(茨城県東海村)が営業運転を開始したのは1966年7月でしたが、その頃、アメリカの原発の設計書を読みました。そこには温度、圧力、水質、地震などに耐えられるよう、設計条件が記されていましたが、「武力攻撃に耐えうる」という条件は一切ありませんでした。つまり原発の設計は戦争を想定していないのです。

 原子炉の仕組みは意外に簡単なものです。原子炉の中で、核分裂によって発生した熱エネルギーによって水が温められ、高温の蒸気になります。その蒸気によって、タービン(羽根車)を回すことで発電します。原子炉で生まれる熱エネルギーの約3分の1が電気になります。残りの3分の2の熱は、蒸気タービンを出た後、海水で冷やされて海に放出され、蒸気は水に戻り、再び原子炉(BWR=沸騰型の場合。PWR=加圧水型の場合は「蒸気発生器」)に戻るので、水自体はぐるぐる回るわけです。だから、例えば100万キロワットを発電すると、原子炉内ではその3倍の300万キロワットの熱が常時、生まれているのです。

 そこで、攻撃を受けたり、事故によって、発電が止まった場合にはどうするか。原子炉内に制御棒を挿入して、核分裂反応を止めなければなりません。しかし、すぐに熱が出なくなるわけではありません。核分裂が止まった後も、ウランが分裂してできたウランの欠片が出す熱は出続けます。そのため原子炉圧力容器内の燃料集合体を冷やし続けないと、冷却水が蒸発して、原子炉が空焚き状態になり、最終的には燃料棒が溶け出して、いわゆるメルトダウンの状態になってしまいます。そこで非常用の冷却装置を使って原子炉内の水を回しながら、熱交換器を通して海水に熱を逃がして冷やしていくのです。

 ただしこの海水を循環させるための海水ポンプは、当然、海岸に近い場所に設置されています。それは攻撃しやすい場所にあるので、海側から海水ポンプを破壊されたら、原子炉を冷やすことができなくなってしまいます。日本の太平洋側に位置する原発は、海水ポンプはほとんどが屋外に設置されています。日本海側は大雪が降るので、一応、屋内に設置されますが、その建屋は雪を防ぐためのものであり、武力攻撃に耐えられるような建物ではありません。

 (P.38~P.40記事から抜粋)

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