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【ミサイル防衛】
米軍が北朝鮮を叩いてくれれば、いい気味だと感情だけで判断する平和ボケのタカ派こそが危険。

「米軍の北朝鮮攻撃への支持は日本への核攻撃を望むのと同然だ (軍事評論家 田岡 俊次)」

季刊『社会運動』2018年4月【430号】特集:改憲・戦争に反対する12の理由

 

米朝が開戦したら数百万人の死傷者が出る

 

─米朝開戦の可能性は高いのですか。北朝鮮は日本を攻撃して来るのでしょうか。

 

 北朝鮮から能動的に攻撃をしかける公算はゼロに近いと考えます。金正恩国務委員長らの目的は北朝鮮の現体制の存続であり、米国や、GDPが北朝鮮の約50倍もあり、近代的通常戦力で圧倒的に優勢な韓国との戦争になれば、壊滅的打撃を受けるのは明白だからです。米国、日本などは、北朝鮮に核の放棄を迫り「最大限の圧力をかける」として経済制裁と軍事的威圧を強めています。冷戦が終了したため、1990年に当時のソ連が韓国と国交を樹立、92年に中国もそれに続き、孤立した北朝鮮は、ロシア、中国から武器輸入をできず、頼るものは核ミサイルだけだから、経済制裁に屈して核放棄をする可能性は低い。2017年8月、河野太郎外相は「韓国との情報交換では、北朝鮮の核、ミサイル開発経費は2016年で200億円以上」と国会で述べています。日本が購入中のF35A戦闘機は1機146億円だから、その1・4機分にすぎません。弾道ミサイルの構造は簡単で、エンジンの寿命も中距離ミサイルなら1分程、大陸間弾道ミサイル(ICBM)は5分ほどでよく、その後は惰力で弾道飛行するから意外に安い。年間200億円程度なら、2016年の北朝鮮のGDP約3兆2000億円の約0・6%だから「経済制裁で資金源を断つ」のは難しいでしょう。経済制裁によって政府が潰れた例は無く、逆に国民の団結を強化する方向に作用した例が多いのです。

 経済制裁で核廃棄をさせられないと、軍事的圧力の強化に傾くことになります。米軍、韓国軍、自衛隊が北朝鮮沿岸に迫り、領域、領空近くで示威行動をしたり、哨戒活動を続ければ、ちょっとしたきっかけや判断の誤りで、北朝鮮が対空、対艦ミサイルを発射するなど武力衝突が起こりかねません。そうした間違いが起きた例はこれまで少なくない。誤射、誤爆は日常的に起きているのです。もしそうなれば米国は「北朝鮮が先に攻撃をした」として、北朝鮮に反撃を加えることができます。

 戦端が開かれれば、米・韓軍は北朝鮮が中国国境に近い山岳地帯に主として展開している弾道ミサイル、およびソウルの北50キロメートルの南北境界線沿いの地下陣地に配備した22連装ロケット砲、約350輌をまず破壊しようと努めるでしょう。だが北朝鮮は北部の山岳地帯の谷間に掘った無数のトンネルに、移動式発射機に載せた弾道ミサイルを隠し、いざとなればそこから出て来てミサイルを立て発射する構えだから、それを破壊するのは困難を極めます。

 偵察衛星で目標の位置が全て分かるように思っている人が多いが、偵察衛星は時速約2万7000キロメートルで南北方向に周回し、約1日で世界各地上空を飛行するから、北朝鮮上空は1分程で通過する。米国は昼間用の「光学偵察衛星」5機、夜間・悪天候用の「レーダー偵察衛星」6機を持ち、日本も当面「光学偵察衛星」3機、「レーダー偵察衛星」4機を上げているから計18機、1日に18分程しか見張れません。偵察衛星は飛行場や核実験場、人工衛星打ち上げ用の巨大な塔など固定目標の撮影はできるが、移動目標の探知はできず、また衛星が上空を通る時刻は分かっているから、その時刻を避けて移動できます。

 「静止衛星で分からないか」と言う人もいるが、これは赤道上空約3万6000キロメートルもの高度で周回し、速度が地球の自転と釣り合うから地表から見れば静止している形になる。だが地球の直径の3倍近い距離だから、直径30センチの地球儀を90センチ離れて見るようなものだ。ミサイルなどは見えず、発射の際に出る赤外線(熱)を感知できる程度です。

 多数の有人、無人の偵察機を高空で旋回させておけば常時監視もできなくはないが、谷間の底を撮影するにはその直上を飛ぶ必要があり、旧式の対空ミサイルでも簡単に撃墜されます。

 北朝鮮の首脳部を殺害する「斬首作戦」も語られるが、要人の所在(作戦発動の決定と実施までの時間差を考えれば未来の位置)を正確に知るのは困難で、米軍がイラクを占領してから、サダム・フセイン大統領を拘束するまで9カ月掛り、オサマ・ビン・ラディンの殺害にはアフガニスタン侵攻後10年を要しました。CIA(中央情報局)はキューバのフィデル・カストロ大統領の暗殺を638回も企てたが、彼は90歳の天寿を全うしました。

 北朝鮮軍の指揮・通信拠点を攻撃してミサイル発射を防ぐことも論じられているが、相手の有線・無線の通信機能は複雑多岐にし、司令部も通信所も複数にしているはずです。各ミサイル部隊に「通信が途絶すれば開封せよ」と入力すべき暗証番号を書いた命令書を渡しておく手もあるから、攻撃で発射を妨げるわけではありません。

 

─米朝戦争が起きると、どれほどの被害が出ますか。

 

 米国ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮研究グループ「38ノース」が2017年10月4日に発表した研究では、北朝鮮が9月3日に実験した水爆を使用すれば、死者は東京で約180万人、ソウルで約200万人と試算しています。私の試算ではウィークデーの昼間に国会議事堂上空で威力160キロトン水爆(広島型原爆の10・7倍)が爆発すれば、半径約4・5キロメートルの圏内で初期放射能と爆風で死者約200万人、負傷者も約200万人、半径約10キロメートル圏内では熱効果ですぐ手当てをしないと命にかかわるようなヤケドをする人が多数出ると思われます。東京だけでなく米軍の拠点である横須賀、佐世保、三沢、横田、厚木、岩国、嘉手納も攻撃目標になる可能性が高いと考えます。日本の政治、行政、経済、情報、防衛の中枢である東京が壊滅した場合、臨時政府をどうして決め、どこを仮首都にするか。また韓国からは90日間ノービザで入国できるから大量の避難民が流入しそうで、その帰国を促すには、戦争後、統一されるだろう韓国の復興に莫大な援助が必要となるなどの大問題も生じます。

(P.50~P.53記事から抜粋)

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