生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

【武器輸出】
成長戦略の一環として進められている武器輸出。
「戦争のできる国」づくりの先にあるのは「戦争を欲する国」

「『死の商人』にはなりたくない(武器輸出反対ネットワーク 杉原浩司)」

季刊『社会運動』2018年4月【430号】特集:改憲・戦争に反対する12の理由

 

難航する武器輸出にいらだつ国防族議員

 

 2014年4月1日の安倍政権による武器輸出三原則(注1)の撤廃と「防衛装備移転三原則」(注2)の策定から4年になります。「国是」の一つとされ、衆参両院の国会決議によって補強された「平和国家」の柱を、一片の閣議決定のみで葬ったこと自体が本来許されないことでした。以来、安倍政権は武器輸出を「成長戦略」に位置づけ、15年10月には防衛装備庁を新設し、官邸主導で武器セールスに前のめりになってきました。

 しかし、4年経っても完成品の輸出はゼロ。目立った成果は出ていません。川崎重工製P1対潜哨戒機の英国、ニュージーランドへの輸出は失敗。また、官邸の肝いりで進められたオーストラリアの次期潜水艦共同開発の大型商戦(三菱重工、川崎重工)では、当初は有望視されながら、結局はフランスに敗北しました。安倍首相はじめ官邸の落胆ぶりは激しいものだったと言われています。さらに、武器輸出三原則の撤廃以前から進行していたインドへの軍用救難飛行艇US2(新明和工業)の輸出もいまだに難航しています。

 さすがに武器輸出推進派も現状を認めざるを得なくなっています。森本敏・防衛大臣参与は2017年6月に幕張メッセで開催された海軍分野の武器見本市「MAST Asia 2017」の際に、「(PKOへの高い評価に)25年の歳月を要した。装備移転も同じような経緯をたどるだろう」と発言し、かつての楽観論を修正しました。また、元三菱重工の武器開発部門の幹部だった西山淳一氏も、「企業はまだ(武器輸出に)マイナスイメージを持っている。メンタリティを変えるべきだ」(2017年11月15日、防衛装備庁技術シンポジウム)と述べています。

 さらに、自民党からは早くも防衛装備移転三原則の見直しを求める声があがっています。同党の安全保障調査会は2017年6月22日付の政府あて提言で、「運用面も含め三原則の見直しを行うべき」と主張しました。国防族議員のいらだちが見てとれます。

 

注1 武器輸出三原則とは、1967年に佐藤内閣が表明した日本の武器輸出に関する原則。①共産圏、②国連決議による武器禁輸対象国、③国際紛争の当事国またはその恐れのある国には、武器輸出を認めないとする政策。76年三木内閣では、それ以外の地域についての武器輸出は慎むこと、武器製造関連設備の輸出は武器に準ずることを方針として加え、事実上の全面禁止となった。2014年安倍内閣で撤廃。

 注2 防衛装備移転三原則とは、武器やその技術の海外移転の原則。①紛争当事国などに該当しない、②日本の安全保障に資すると判断できる、③目的外使用や第三国移転をしないと相手国が約束した場合に、武器の輸出や共同開発への参加ができるとされるが、定義があいまいで、裁量の余地も大きい。

 

九条があっても紛争当事国へ武器輸出する日本

 

 完成品の輸出が難航する中、実績づくりを焦る安倍政権は、なりふり構わぬ動きに出てきています。

 第一は、アラブ首長国連邦への川崎重工製C2大型戦術輸送機の輸出の動きです。サウジアラビアは連合軍を組織して2015年3月、イエメンの内戦に介入する形で、無差別空爆を開始しました。英国や米国などが輸出した武器によって、子どもや女性などの民間人を含む多くの人びとが死傷。ユニセフによれば、死傷した子どもは内戦全体で5000人を超えます。道路や水道、港湾などのインフラに加えて病院までが空爆で破壊され、国境封鎖による人道支援の停滞も相まって、イエメンには飢餓が広がり、コレラも蔓延しました。

 その結果、人口約2700万人のうち、なんと2000万人以上が食糧・医療などの緊急人道支援を必要とし、国民の3分の1にあたる850万人が飢餓の危機に瀕しています。2017年4月以降、100万人以上がコレラにかかり、2200人以上が死亡しました。適切な医療があれば助けられた命です。国連が「世界が過去何十年も目にしたことのない最大規模の飢餓を招く」と警告するほどの未曾有の人道危機です。

 サウジアラビア主導の連合軍の一員であるアラブ首長国連邦が、「紛争当事国」であることは言うまでもありません。しかし、2017年12月に私たちが行った交渉で防衛装備庁の担当者は、イエメンを「紛争当事国とは言えない」と主張しました。防衛装備移転三原則が「紛争当事国」の定義を、「武力攻撃が発生し、国際の平和および安全を維持しまたは回復するため、国連安全保障理事会が取っている措置の対象国」と極めて狭く限定しているからです。日本政府の解釈によれば、現在世界に「紛争当事国」は存在しません。防衛装備移転三原則は、「はじめに武器輸出ありき」の、現実と乖離した代物なのです。

 武器輸出国であるノルウェーやドイツですら、「人道危機に加担する恐れがある」として、アラブ首長国連邦への武器輸出を停止しました。憲法九条を持つ日本が、武器輸出をいまだに断念していないのは常軌を逸しています。川崎重工の並木祐之常務は、「装備品の輸出を拡大できれば、我々ビジネスとしてもやっていけますし、国の安全保障のお役に立てるんじゃないか」と放言し、防衛装備庁の林美都子国際装備課長に至っては、2017年11月の防衛装備庁技術シンポで、ドバイ航空ショーへのC2輸送機の展示を含む武器セールスへの「奮闘」ぶりを高揚感をもって語る始末です。完全にタガが外れています。

 紛争当事国への禁断の武器輸出は、食い止める以外に選択肢はありません。川崎重工に対して、「死の商人にならないで」という声を届けてほしいと思います。日本政府は、英米などによるサウジへの武器輸出をやめさせ、サウジ主導の連合軍による無差別空爆を中止させると同時に、人道支援の拡大に尽力すべきなのです。

(P.172~P.175記事から抜粋)

 

 

インターネット購入