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老後破綻の時代における「無届けホーム」という「光」(市民セクター政策機構 専務理事 白井 和宏)

季刊『社会運動』2018年7月【431号】特集:年金一人暮らし高齢者に終の棲家はあるのか

老後破は綻たんの時代における「無届けホーム」という「光」

市民セクター政策機構 専務理事 白井 和宏社会運動

 

 急増する「無届けホーム」「無届けの老人ホームが急増している」という番組を、NHKが放送したのは数年前だった(注)。その背景には、在宅でケアを受けられず、金銭的にも余裕がなくて、行き場を失った高齢者が増加していることがある。そのため、正規の老人ホームより利用料が安く、身寄りのない高齢者を受け入れている「無届けホーム」が増えているのだ。取材に応じた経営者は、「こうした施設がなければ、高齢者の行き場がない実情を知ってほしい」と言う。木造2階建ての和室にベッドが並び、7人の高齢者が介護を受けながら暮らしている。月々の利用料は食費も含めて約15万円。

 「行くところがないから、ここが一番いい」「無届けホーム」は費用が安い代わりに、防災や介護体制、住環境が十分でない施設が多い。しかし高齢者も行政もそれを必要としている現実がある。7年前に入居した86歳の女性は、「介護を頼れる家族はいません。体調を崩して入院して以来、自宅で一人で暮らすのが難7しくなりました。収入が少ないため入れる施設はここだけだと区役所から紹介されました。行くところがないから、ここが一番いい」と語る。

 厚生労働省の調査によると、こうした施設は2009年に全国で389カ所だったが、17年には1046カ所あるという。届け出された有料老人ホームは全国で1万2608カ所あるから1割近くになる。届け出しない理由としては、「消防設備の設置が困難。建築基準法が満たせない。手続きが煩雑。行政の干渉から自由に事業を行いたい」からだという(「一般財団法人高齢者住宅財団」の調査による)。

(注)2015年1月20日 クローズアップ現代「〝無届け介護ハウス〟急増の背景に何が」(http://www.nhk. or.jp/gendai/articles/3602/1.html)

 

スプリンクラー設置の義務化で事業所が閉鎖

 長い老後を迎えるにあたり、自分の生活設計を考えている人は少ない。そもそも健康状態や家族関係は自分の期待どおりにならない。気がついたら、一人暮らしになり、貯蓄が尽きることは、誰にでも起こりうる。  笑顔と明るさに満ちた立派な設備の有料老人ホームの広告が、巷にあふれている。しかし必要な入居費用は、一時金に加えて月30万円程度。年間360万円、10年なら3600万円になる。負担できる人は少数だろう。特別養護老人ホームなら15万円程度だが、多くの人が入所待ちの状態だ。
 今後は、ますます一人暮らしや認知症の高齢者が増える。もっと低額で入居できる施設が必要だ。ところが18年4月から高齢者や障がい者向けの、避難が困難な人が入居・宿泊している小規模な施設にスプリンクラーの設置が義務づけられた。数百万円の設置費用が負担できず、事業所が閉鎖され、利用者が退去する例が相次いでいる。低額で安心して入居できる施設を増やすことこそ、行政が果たすべき重要な役割である。今まであまり知られていなかった施設に光を当ててみたのが本誌である。

(P.6~P.7記事全文)

 

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