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市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

4.地域で暮らすための応援拠点(生活クラブ風の村 きなりの街すわだ)

季刊『社会運動』2018年7月【431号】特集:年金一人暮らし高齢者に終の棲家はあるのか

 4年前、一人暮らしの年金生活者や生活困窮者のための住宅型有料老人ホーム「生活クラブ風の村 きなりの街すわだ」が市川市須和田にオープンした。

 市川真間駅から県道を歩いて15分。小さな看板を目印に路地を曲がると、新しいアパートや廃屋、民家の混在する静かな住宅街がある。まず目に付いたのが、カフェとメニューの看板。カフェの前には自転車やバイクが並び、2階にはカーテンが引かれた大きな窓が六つ。左端の部屋のカーテンが揺れている。入口の通路は玄関まで両側に手摺りがあって、歩いても車椅子でも安全に通れるよう、バリアフリーになっている。

 1階の部屋の前には、生活クラブのロゴが入った白い車が2台。この木造2階建ての有料老人ホーム「きなりの街すわだ」に、12人の住人が、介護や見守り支援を受けながら暮らしている。

 この住宅がなぜ建てられたのか。ここを終の棲家として暮らす人たちはどんな暮らしをしているのか。所長の長崎直子さんにお話を聞いた。

長崎さんは「きなりの街すわだ」の名前の由来について話してくれた。

 「『きなり』とは、ありのままでという意味です。『街』には、こういう住宅がいくつか増えて、ありのままに暮らせる街になってほしいとの思いが込められています」

 

 

生活困窮者や路上生活者の終の棲家を求めて

 

 もともとは「NPO法人ガンバの会」が、生活困窮者や路上生活者の自立支援の一環として、安いアパートを紹介し、路上生活からの脱却を支援してきた。しかし、病気になったり、介護が必要になったりして、一人暮らしが困難になるケースも少なからず出てきた。市川市には低所得者が入居できるケア付き住宅がなかったため、泣く泣く山の中の施設や県外の安い施設に送らざるを得なかった。こうしたことから、「住み慣れた地で、医療や介護が必要になっても安心して暮らし続け、最期を迎えられる共同住宅がほしい。ないなら作ろう」と。

 しかし、なかなか思い通りには進まない。ガンバの会の活動は、これまでホームレス支援が中心だったため、介護や住宅管理についての知識やノウハウがなく、資金面でも行き詰まっていた。

 一方、社会福祉法人生活クラブ(通称・生活クラブ風の村)は特別養護老人ホームを建設し、運営している実績があり、2000年からは介護保険事業を開始。市川市内にも介護ステーションを構えており、ケアマネジャーや介護福祉士、ヘルパーといった専門職の人材だけでなく、住宅管理などの知識やノウハウも持っていた。

 ガンバの会からの声かけで、一緒に制度と住宅についての勉強会を始めていたこともあり、相談を受けた社会福祉法人生活クラブがその思いを共有することになった。

 「介護保険や福祉制度に縛られず、社会的自立の難しい路上生活者や高齢者、障がいのある人が入居できる民間の共同住宅(賃貸アパート)にしよう」と、開所に向けて動き出した。

 「そんな時、ガンバの会が支援している人が入居している古いアパートが取り壊されるかもしれないという情報が入ってきたんです。大家さんに協力を求めると、理解のある方で、建物は大家さん、設計は社会福祉法人生活クラブが担当。家賃は30年契約で、社会福祉法人生活クラブが月々支払うということで話がまとまりました」と長崎さん。

 

 

無認可アパートから認可有料老人ホームに

 

 2014年7月のオープンを控えた6月、賃貸契約書を持って千葉県に申請に行ったところ、大問題が発生した。

 入居者や地域の人が交流できるようにと作ったカフェ、厨房や配食などの説明をしていると、担当職員が「同じ屋根の下に厨房があり、食事を提供される方の中に高齢者が一人でもいたら、民間アパートではなく、有料老人ホーム(117ページ参照)の扱いになりますよ」というのだ。高齢者虐待防止法も絡んだ千葉県独自の条例だが、もともと有料老人ホームではなく無認可アパートのつもりで建てているから、建築基準にある「廊下2カ所にスプリンクラーの設置」を満たしておらず、簡易消火器では不適合と指摘されてしまった。設計の関係でどうしても変更できないところもあったが、急きょ、縄梯子などで対応した。

 本来、有料老人ホームは建てる前に県の許可が必要だ。きなりの街すわだの場合、順序は逆だが、結果的に有料老人ホームという形で届け出を出し直すことになった。

 そうして7月1日、やっとオープンにこぎつけた。有料老人ホームは県の管轄下に置かれ、2年に1回、虐待防止をメインとした立入検査が実施される。これまでの立ち入り検査では大きな問題もなく合格している。

 

 

気持ちよく過ごせる住環境

 

 1階には介護事業所、厨房、カフェ、三つの個室、車椅子用トイレがあり、2階には24時間見守りの宿直室、個室が九つと共用の台所・食堂・リビング・浴室・乾燥機付きの洗濯室・車椅子用と普通のトイレが一つずつ、そして廊下の左中央にエレベーターがある。車椅子の方も自分でエレベーターに乗り、降りていくことができる。トイレも洗面所も掃除が行き届き、廊下や部屋にもごみ一つ見当たらない。

「お金があれば、毎日デイサービスに行きたい」

 全部で12室の個室には、55歳から90歳までの男性9人、女性3人が入居している。要介護が11人、障がいのある人が1人。それぞれ訪問介護やデイサービスを利用している。

(P.82~P.85記事から抜粋)

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