生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

5.介護保険制度の枠外の経験を生かして高齢者の新たな寄宿舎を(グループリビングCOCO結いのき・花沢)

季刊『社会運動』2018年7月【431号】特集:年金一人暮らし高齢者に終の棲家はあるのか

 高齢になり認知症になっても、障がいを抱えても、できるだけ自立した生活を送りたいと誰もが思っているはず。そんな高齢者の自立生活をサポートするグループリビングを山形県米沢市に2009年に開設。そして2018年7月に2号館を開設する特定非営利活動法人結いのき。常務理事の松本由美子さんにグループリビング成功の秘訣を聞いた。

 

東北初のグループリビング

 

 グループリビングCOCO結いのき・花沢(1号館)は、特定非営利活動法人結いのきが事業を行う「高齢者生活共同運営住宅(通称グループリビング)」です。2009年1月に東北初のグループリビングとして運営を開始して、18年で10年目になります。グループリビングは、介護保険事業や有料老人ホームではなく、寄宿舎です。

 入居者は費用の全額を自己負担します。入居一時金は50万円または300万円(解消時に残金を清算し返却)。1カ月の生活費は、家賃が6万3000円、食材費が約2万5000円(昼食と夕食。生産履歴と原材料を確認した生活クラブ生協の食材を主に使用)。水道光熱費などの共益費が約2万4000円。共同スペースの清掃、昼食・夕食の食材発注・調理・配膳などの家政委託費が約2万円。1カ月合計およそ13万2000円の費用がかかります(入居一時金が50万円の場合は月額約1万2000円加算)。

 約15畳ある全10室の個室にはトイレとミニキッチンが備わっています。共同スペースは、食堂、調理室、浴室(2室)、洗濯室、共用トイレなどと、来客のためのゲストルームが1室あります。

 

 たくろう所の経験を生かす

 

 特定非営利活動法人結いのきの福祉事業の始まりは、生活クラブやまがた生活協同組合の前身である、米沢生活協同組合が立ち上げた「たくろう所」でした。

たくろう所には職員は配置せず、ずっと生協組合員の有償ボランティアで回していました。私が保育士の免許を持っているくらいで、他の人は誰も介護資格を持っていません。

 2000年には介護保険制度が始まりましたが、利用に制約があるため、制度で対応できない事情を抱えた高齢者がいたのです。その人たちを支えるために、たくろう所を介護保険制度の枠外で運営し続けました。その経験が、後のグループリビング運営にとても役立っています。

(P.93~P.94記事から抜粋)

 

 

 

成功の秘訣は有償ボランティアの確保

 

 グループリビングCOCO結いのき・花沢の財政事情はとても厳しく、その支えになっているのが有償ボランティアです。有償ボランティアは基本的に生活クラブやまがた生協の組合員が中心です。

 ボランティアは仕事ではありません。ですが、車はタダで走らないし、電話もタダではかからないので、有償ボランティアには実費を補填する金額と、少しだけ自分の持っている時間を社会貢献に当てて、対価をもらっていると言えるくらいの金額を支給しています。時給600円です。有償ボランティアには、1週間に多くても2回程度、食事の支度や掃除などに入ってもらっています。それ以上の回数になると、いまの時給では続かなくなると思うのです。多くの人にかかわってもらうのが望ましいですが、人数の確保が課題になっています。

 ボランティアが集まりやすい時間帯と集まりにくい時間帯があるので、「まずは1回でいいから来てもらえないか」といろいろな方に声をかけています。

 2018年7月から始まる2号館では、朝の時間帯のボランティアが足りずに困っています。苦肉の策で考えたのが、1号館に毎日自分で朝食を作っている70代の入居者がいるので、その人にボランティアに入ってもらおうということ。「2号館で朝食を作ってくれる人を探しているけど、試しに1回やってみてくれる? 有償ボランティアだからお金もわずかだけど出るよ」とお願いしたら、「考えてみる」と言ってもらえました。一方で、まもなく勤め先を退職する70代の人が「いきなり仕事がなくなるのはちょっと良くないので半日くらい働きたいんだけど、午前中の当番をさせてもらえないかしら」と申し出てくれることもありました。

 つらい事ばかりだったら時給600円ではやっていられないでしょう。ですが、ボランティアに入ると、みなに「ありがとう」と言われる、食事を作ると「いやーうまかった」と言われるのです。朝からふきのとうを炒めて甘味噌で味つけして出すと「春の香りがして美味い」と言ってくれる。この喜びは格別なものです。自分も人の役に立っているという経験を重ねる中で、知らず知らずのうちに人が育っていくいい循環かなと思っています。

 有償ボランティアの人たちは、どこかで社会とつながっているという意識を持ってますし、生きがいも感じているようです。子育て真っ最中の人は、子どもが幼稚園に行っている午前中の当番がいいようですし、夕方の当番は車を運転できる60歳くらいの人が来てくれます。

(P.96~P.98記事から抜粋)

 

インターネット購入