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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

社会を破壊する差別を食い止める (反レイシズム情報センター代表 梁 英聖)

季刊『社会運動』2018年10月【432号】特集:ヘイトスピーチは止められる差別のない社会をつくろう

─反レイシズム情報センターの活動を紹介してください。

 反レイシズム情報センターは、日本初のヘイトウォッチ団体です。私たちが行っている反レイシズム・反差別の活動は、差し迫った問題は暴力を行う差別主義者なのだから、極右を監視し、情報を集めて公表することで、極右の動向を可視化し、差別が暴力に転化するのを徹底的に止めることです。2016年の参議院選挙に合わせ、「政治家レイシズムデータベース」を公開しましたが、学生ボランティアチームの調査によって判明した政治家の差別はすでに5000件近く(2018年8月)にも上っています。
 中心メンバーは大学生・大学院生です。留学生や在日も多いですし、大学生のメンバーの半分以上は女性です。ですから何かしら自分が差別の被害を受けた人も多いのです。また、アメリカやイギリスに留学して、日本があまりにも差別的だと気づき、帰って来てから何かしたかったという人も結構います。
 近現代史を見ても反差別運動というのは、大体若い世代から起きますよね。それは差別が文化と絡むからです。差別というのは慣習化されたものでもあるので、上の世代から変わるというのはなかなか難しいのです。あまり表面化していませんけれど、若い世代の中で、やはり差別はおかしいと疑問を持つ人は相当いると実感しています。そういう人には、被害者の口を借りる反差別運動は、少しズルく見えるのです。だからネット右翼はそこを突く。自分の言葉で反差別を語れないという弱点を攻撃するのです。


重要なのは差別と区別の違い
 私たちがレイシズムを学ぶ講座で最初に話すのは、人種差別撤廃条約の第一条です。何が差別で、何が区別なのかを区別する方法が人種差別撤廃条約の第一条に書いてあります。それには、血にまつわるグループに対する、不平等な、効果、という三つの基本要素があります。グループに対する不平等な効果があれば、すべて差別です。被害があろうがなかろうが、歴史を知らなくても、すぐに区別はできます。そこで実際の極右政治家たちのひどい発言を調べてみると、みんな驚いて、これは何とかしなくてはいけないと感じるのです。その過程で学生たちが変わっていく様子もよく分かります。この活動を通して、社会に流されて生きるだけではなく、「いまの社会がおかしい」という立脚点を持ち、自分の言葉で「おかしい」と言えるようになるので、自信にもつながります。


自分自身と社会を守る人間らしさの尺度を
 その一方で私が危惧しているのは、日本社会で暮らす多くの若者たちに、「これ以上の権利侵害は許されない」と言える「人間らしさの尺度」がないことです。典型的な例は就職活動(就活)でしょう。いまの若い人は、就活でいくら騙されようと、ブラック企業の中でいくら使いつぶされようと、大手の会社でいくらセクハラ面接を受けようと、自分が悪いと思ってしまうのです。しかしこれらは本人が悪いわけでは決してありません。それに対して何も言えないのは、「市場原理が働かなければ社会は回らない」という不平等な価値観に対する対抗原理を持っていないからです。
「これはおかしい」と感じられるのは、それを計る尺度を自分の中に持っているからです。しかしいまの日本社会では、若い世代が自分らしく生きることを表現する手段を、市場原理とか、愛国心とか、日本の歴史を守るとか、そういう言葉に全部奪い取られています。ですから、自分自身や、友だちや家族、社会を守る「人間らしさ」の尺度を見つけることも反差別の運動からすすめていく必要があります。

(P.135~P.137記事から抜粋)

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