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スマホのアプリで息子の軍隊生活を覗く (韓国語翻訳家・ライター 斎藤 真理子)

季刊『社会運動』2018年10月【432号】特集:ヘイトスピーチは止められる差別のない社会をつくろう

息子を軍隊に送り出した
親を安心させるためのサービス
 昔は韓国社会全体が荒っぽかった。私と同年代ぐらいの男性は育った時代が軍事政権下の社会だから、学校でもさんざん殴られたし、学校も社会も軍隊的なもので溢れていた。でも今の時代はみんな洗練されていて、社会全体の人権意識も格段に向上したのに、そこで育ってきた男の子たちが、自由のない、我慢を強いられる、マッチョな別世界に適応するのはどんなに大変だろう。
 そう思っていたところ、貴重な生の声に接することができた。私は友人たちと一緒に、韓国文化を紹介する雑誌『中くらいの友だち』というものをやっている。その雑誌の次号で息子を軍隊に送り出したばかりというお母さんたちの座談会を掲載することになったのだ。一足早くその内容を読ませてもらった結果、韓国の軍隊は今、変わろうとしているんだなという印象を受けた。
 いじめやしごきに関しては、過去よりもかなりよくなっているという。最近の若者を理由もなく殴ったりしたら大問題になることが当局もよくわかっている。それと関連して、保護者を安心させるためのサービスも実施されているそうで、隔世の感がある。
 入隊した新兵たちはまず、5週間にわたる訓練を受けるのだが、その期間中の生活のようすを保護者に伝えるアプリが用意されているのだそうだ。保護者はそのアプリをスマホに入れ、そこにログインして息子の現在の状況を知ることができる。訓練内容や、三食のおかずまでわかるというからすごい。アプリを通してメッセージを送ることもできるという。息子たちはスマホを持つことを禁止されているので、親からのメッセージは紙にプリントアウトして渡してくれるのだとか。
 最初の関門である訓練が終わると配属が決まる。その後のことは軍の機密に属するので、このように親に知らせることはできないのだろうが、やはり最初の訓練期間が本人たちにとってもいちばん厳しく、親にとっても最も心配が募る時期だ。そこに焦点をあてたサービスは、保護者を安心させるだろう。
 また、すごいなと思ったのが、新兵のメンタルの問題との関連で導入されたとおぼしきシステム。本人が「かまわないでもらいたい」と思ったら、そのように意思表示するためのバッジがあるんだそうだ。精神的にしんどくて、放っておいてほしい人がそれをつけていたら、誰もかまってはいけない。このバッジをつけている若者に何か問題が起きたら責任者は処分されるそうである。
 これらの変化に、自分も軍隊を経験したお父さんたちは懐疑的で、「そんなはずはない」と疑心暗鬼であるらしいが、今、韓国の軍隊はまさに過渡期にあるのだなあと感じる。

(P.175~P.177記事から抜粋)

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