生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

01:つながりを生み出す社会へシェアコミュニティのすすめ (カルチャースタディーズ研究所主宰 三浦 展)

季刊『社会運動』2019年1月【433号】特集:0円生活を楽しむ―シェアする社会

 「もうけるための道具として人を雇う」というのは「手段」としての考え方です。目的はあくまでももうけること。そのために正社員ではなくパートを雇い、人間よりコストが安ければ機械を使います。しかし、私の言うシェアコミュニティの価値は誰かが金をもうけることにはありません。
 私の事務所のある西荻窪(東京都杉並区)には、「okatteにしおぎ」(注3)というコミュニティキッチンがあります。会員が100人もいるので、比較的大きなグループです。okatteにしおぎは、「100人のメンバーがほぼみんな満足している」という意味では成功かもしれないけれど、お金という意味ではなんとか継続できている状況でしょう。そもそもokatteにしおぎはお金がどんどん回ることや、収入が増えることを成功だとは思っていないでしょう。メンバーも主宰者も「okatteにしおぎはもうかる」からではなく、「okatteにしおぎに行くと楽しい」から参加しているわけです。
 消費の形としてのシェアには、中古品を買うことも、シェアハウスに住むことも、銭湯に行くことも含まれます。新品を次々買い替える消費でも、自分だけの財産を増やす消費でもないものを、広義の「シェア消費」と呼べば、いろいろな「シェア消費」があります。
 住宅地にタイムズとかオリックスのカーシェアを見かけますよね。でも、それはあくまで個人が利用予約して、その車を使うのです。そうした行為は地域の人が知らない間にされます。
 私が考えるシェアコミュニティにおけるカーシェアは、例えば「この地域には免許を返納した高齢者が多いので、そういう人たちが病院に行かなくてはいけない時に、誰かが運転して彼らを乗せていける仕組みを地域で作りました」というものです。つまりクルマに乗ることでコミュニティができていく仕組みです。それを私は最近「コモビリティ」と呼んでいます。コミュニティのコミュニケーションを誘発するモビリティという意味です。
 私はシェアハウスについてもだいぶ調べてきました。家賃が安いからシェアハウスを選ぶ場合もありますが、今、シェアハウスの住民は正社員が増えていて、収入も高いのです。だから経済的理由でシェアハウスに住むというより、「楽しいから」、「何らかのチャンスがあるから」、「困った時に助け合えるから」といった理由で住んでいる人が少なくないのです。
 シェアハウスやリノベーションというシェア的な行動は若い人たちから起きてきました。それは、「今でも高齢者が多くて大変だけど自分たちが年をとったらもっと大変だ」ということに気付いた人たちなんですね。自分が80歳になった時にも経済成長が望めるとは到底考えられないので、今の経済の仕組みではない社会生活ができる仕組みが地域に必要です。住み方も、食べ方も、今から変えておいた方がいい、と気付いた人が起こしたアクションです。若い人が、お金ではなく、自分が年をとった時の「生活の質」を考えて行きついたのがシェアだと思います。
 不動産業は、売りっぱなし、貸しっぱなしが一番もうかるので、金もうけだけ考えると、売った後まで住民が楽しくなるようにイベントを企画するなんてことはしません。シェアハウス運営は面倒くさいので、どんな会社でもやりたいという事業ではない。好きでないとできないのです。
 だからか、シェアハウスは2005年から15年ごろは急増しましたが、今はジワジワとしか増えていません。住みたい人は多いのですが、物件の所有者がシェアハウス経営に興味があるとか、運営会社が増えるなど、様々な条件がそろわないとできないのです。

注3 okatte(おかって)にしおぎ
   http://www.okatte-nishiogi.com/

(P.15~P.17記事抜粋)

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