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市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

10:農業を体験しながら0円生活の旅(WWOOFジャパン)

季刊『社会運動』2019年1月【433号】特集:0円生活を楽しむ―シェアする社会

 ウーフはホスト、ウーファーともその国のウーフ事務局に登録するところから始まる。ウーファーは事務局が運営するウェブサイトでホストを探し、連絡をとって合意ができればホストを訪問し、ウーフが始まる。現在は、世界60カ国以上で実施されている。日本では、1994年にWWOOFジャパンが発足、現在約430人のホストが登録している。
 「オーガニックな生き方」を基本理念に据えたウーフという「お金のやりとりのない、人と人との交流」とはどんなものか。長野県のホスト農家を訪ねた。

 

お金が介在しないと楽しさを考えるようになる

 

 八ヶ岳山麓の高原にある「ほそかわ農園」を訪ねると、築150年という大きな古民家で細川一哉さん、宏子さんご夫妻、それに元ウーファーの石川博之さんが出迎えてくれた。
 細川さんたちがホストになったのは10年ほど前。WWOOFジャパンからホスト募集の連絡があり、子どもたちが小学校に入ったのを機に始めたのだと言う。
 「海外の人を自分たちで受け入れられるのか、始める前はすごく不安でした」と宏子さん。だが、始めてみると、杞憂に終わった。
 「約50種類の野菜と米を栽培していて、種まきや植え付け、田畑の除草、収穫、稲のはさがけ、宅配農産物の箱詰めなど作業は時期によって様々ですが、慢性的に人手不足なので、ウーファーさんに作業してもらえて助かっています」と一哉さん。
 不安だった海外からのウーファーとのコミュニケーションについては、ウーファーも日本語を勉強しようという意欲があり、細川さんたちも英語を勉強したりで、さほど困らなかったそうだ。
 これまでに日本をはじめ、アメリカ、カナダ、香港、台湾、そのほかヨーロッパ諸国から一度に1?2人を1週間から1カ月受け入れ、1年で7?8人、10年で100人弱のウーファーを受け入れてきた。
 「石川さんも1カ月いてくれて、とても助かりました」と宏子さん。
 お金を介さない関係について、一哉さんは「バイトだったらお金を払う分働いてもらわなければ、と思うけれど、お金なしでやってもらうほうが楽しい」と言う。宏子さんも「来てもらった人にお金をお支払いできない分、ご飯の時に話をする時間を持つなど、できるだけ楽しくやってもらえるように気をつかっています」としつつ、「うちの野菜を食べて、おいしいとすごく喜んでもらえるのもうれしいですし、ウーファーさんが家族みたいで私たちも楽しい」と顔をほころばせる。
 お金を介さない交換はお互いに与え合うことであり、誰かに何かを与えること。それが喜ばれることが端的にうれしい体験となるのは容易に想像できる。
 また、その相手が「旅人」であるということで、細川さんは楽しい以上のものも得ていると言う。
 「外国からきたウーファーさんと話していると自分の中で日本についての再確認ができます」と一哉さん。また、一緒にやる農作業などを見てウーファーたちが驚いたり、喜んでくれるので、自分の仕事も誇りに思うようになったと言う。
 かつて受け入れたカナダ在住の日本人ウーファーのもとを、家族で訪ねたこともあるそうだ。また、息子さんは、何度も受け入れたある日本人ウーファーの影響で、10代でウーフの旅に出るなど、積極的になった。宏子さんは、毎月WWOOFジャパンへ送る状況報告のなかで、こんな言葉を送っている。
「たくさんの素晴らしい出会いがあり、いまだに交流している方もたくさんいます。ウーフは私たち家族の人生を変えたと言っても過言ではありません」
 見ず知らずの人どうしの幸せな出会い、交流ができるのは「オーガニックな暮らし」という共通の価値を土台としてしているからだろう。

(P.150-P.152記事抜粋)

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