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どんなことが、道徳教科書では問題に?


 中学校の道徳教科書を出版しているのは、採択占有率の高い順に「東京書籍」(34・8%)、「日本文教出版」(25・3%)、「光村図書」(16・0%)、「教育出版」(10・1%)、「学研教育みらい」(5・7%)、「廣済堂あかつき」(5・4%)、「学校図書」(2・4%)、「日本教科書」(0・3%)の8社。これらはすべて検定に合格しています(2019年度の文部科学省需要数より。%は占有率)。
 けれども、検定に合格したからと安心して受け入れてもいいのでしょうか。例えば教育現場や市民から「子どもたちに手渡せない」と徹底抗議を受けているのが「日本教科書」です。栃木県大田原市、石川県小松市・加賀市、一部私立中学で採択されており、採択率は最下 位ですが、その内容が非常に問題視されています。
「日本教科書」は2016年に道徳専門の教科書会社として設立され、新規参入した会社です。安倍首相のブレーンとして知られる教育再生実行会議の八木秀次氏らが代表取締役を務めていましたが、現在この出版社は嫌韓本やヘイト本も手がけていた晋遊舎と同じビルに入っています。教材の一つに、真珠湾を訪れた安倍首相の「和解の力」というスピーチがあります。内容は過去の戦争を反省するよりも、都合よく和解してアメリカとの未来志向を目指すというものです。一方でアジアへの加害責任には触れていません。また従来の教科書では、評価が定まらない現役政治家を取り上げることはありませんでした。そのような点からも教材として適切なのかどうか、疑問視されるところです。
 そのほかの多くの教科書に取り上げられ、一見さらっと読めてしまう教材の中にも、読み方を注意しなければならないものがあります。
 教科化された道徳は、特定の価値観を教え込むのではなく、「考える道徳」「議論する道徳」へ転換したのだと、文部科学省は「学習指導要領解説書」(98ページ参照)で説明しています。それをふまえたうえで、「協調性を重んじるあまり自己犠牲を強いる内容になっていないか」「民族や性、考え方、価値観などの多様性を重視しているか」「家族や男女の役割、あり方を押しつけるものになっていないか」などをよくよく考えて読む必要があるでしょう。

(P.15~P.16記事抜粋)

 

中学教科書、ここが問題!


では、ここからは実際に中学の道徳教科書を読んでみましょう。

法やきまりの意義

「二通の手紙」

あらすじ

 定年退職後も市営動物園で再雇用されて働く元さんのもとに、ある日、入園時刻終了後に小学校3年生くらいの女の子が小さな弟を連れてやってきた。よくやってくるきょうだいだった。入園時間が過ぎており、小学生以下の子どもは保護者同伴が規則だからだめだと断ったが、今日は弟の誕生日だからキリンやゾウを見せてやりたかったのに、と女の子は泣き出さんばかり。かわいそうに思った元さんはすぐ出てくるようにと言い聞かせて、二人を中に入れた。
 ところが閉門時刻になっても子どもたちは戻って来ず、園内は職員をあげての大騒ぎに。日暮れ間近になって、ようやく池で遊んでいた子どもたちが発見され、ことなきを得た。
 数日後、元さんに子どもたちの母親から手紙が届く。夫が倒れて自分が働きに出ているため子どもたちに何もしてやれなかったが、子どもの心を察して動物園に入れてもらった温かい気持ちにとても感謝している、と書かれていた。その手紙は元さんを喜ばせた。しかしもう一通の手紙が待っていた。それは上司から渡された懲戒処分の通告だった。
 元さんは二通の手紙を見比べ、「子どもたちに何事もなくてよかった。私の無責任な判断で事故にでもなっていたら……この二通の手紙のおかげでまた新たな出発ができそうだ」と話す。
 元さんの姿に失望の色はなく、それどころかはればれした顔で身の回りを片付け始めたのだった。(8社全社に掲載) 
読み方の注意点
 物語そのものは、いろいろな読み方ができます。例えば「子どもたちの安全を守ることが大切なら、元さんや他の職員がついていけばいいのではないか」などの意見が出るかもしれません。しかし冒頭に「法や決まりの意義」と書かれているため、それ以外の読み方ができなくなります。いくら良いことをしても法や決まりに従うことのほうがもっと重要である、と価値観を押しつけることにはならないでしょうか。
 元さんが懲戒処分になったことに、「これは労働問題ではないか、処分が適切だったのだろうか」という疑問もあっていいはずなのに、労働問題を問う教科書はありませんでした。「二通の手紙」では遵法精神、つまりルールには守らなくてはならない絶対的な理由があり、「ルールを守らなかった元さん」のみが子どもたちに焦点化されてしまいます。
 元さんははればれした顔で潔く去っていきましたが、このような対応をされて怒る人もいるかもしれません。けれども「法や決まりの意義」というねらいのもとでは、そのような多面的な見方は「ネガティブな意見」として忌避され、教員によって封じられてしまうことにならないとも限りません。

(P.20~P.22記事抜粋)

 

我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度
「外国から見た日本人」

 あらすじ
(全文・報道は一部抜粋)

 2011(平成23)年3月11日午後2時46分、宮城県沖でマグニチュード9・0という大地震が発生しました。巨大な津波が沿岸の地域を襲い、多くの尊い命が失われました。
 未曾有の大災害を受けたあとの日本人の姿を、海外のメディアは次のように報じています。

 「目だった略奪もない。食料や水やガソリンが不足しているにもかかわらず、誰も口論しないし、クラクションも鳴らさない」。(3月17日付 イギリス『ザ・タイムズ』より)

 「市民の共通の利益のために「ガマン」する精神は日本人の最もよい面で、自分の利益をさしおいてガマンする精神はアメリカ人も見習うべきだと思う」。
(3月11日付 アメリカ『ニューヨーク・タイムズ』より)

 「混乱に満ちた中で、日本人はストイックであり続けている」。
(3月16日付フランス『ル・パリジャン』より)

 「想像を絶する大災難と、想像をはるかに上回る日本人たちの冷静な対応に全世界が衝撃を受けている」。(3月14日付 韓国『中央日報』より)

 「危機の中において、法に従い、秩序を守る気高さこそが、日本人のすばらしい国民性をより顕著に表していた」。(台湾『看雑誌』4月28日号より)
(教育出版に掲載)

読み方の注意点

 海外の報道では、東日本大震災のあとで秩序正しく行動した人たちを評価するものが多かったのですが、それだけではなく、放射能を大気中にまき散らしていることや海洋汚染などについて厳しい評価はいくつもありました。しかしそのような不都合な事実に触れずに、日本人としての誇りばかりを強調しているのはなぜでしょうか。
 同じく教育出版の道徳教科書の最終ページには、47都道府県の偉人の一言が出ています。このような「日本人すごい」の教育に、外国にルーツがある子ども、その親たちは何を思うでしょうか。今後ますます多様なルーツを持つ子どもたちが教室に増えるなかで、「日本人の美徳」ばかりをことさら強調する教育はふさわしいと言えるでしょうか。

(P.27~P.29記事抜粋)

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