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安倍政権が進めた道徳の教科化-多元的な価値観による転機を(日本大学文理学部教授 広田照幸)

季刊『社会運動』2019年4月<434号>【特集:学校がゆがめる子どもの心ー「道徳」教科化の問題点】

道徳の教科化はどのように実現されたのか
90年代から進められていた教育改革

 まず、教育改革をめぐる大きな流れを振り返ってみましょう。近年の改革には三つの潮流があります。
 一つ目は、多元的な価値観に基づいたリベラルな改革の考え方です。本格的に動き始めたのは、1990年代でした。当時は文部科学省(以下、文科省)主導で、リベラルな改革が推進されました。一人ひとりの児童生徒にきちんと目を向けようということで、不登校に対する新しい考え方を出したり、日本語指導の必要な児童生徒への配慮を始めたりする一方で、一人ひとりの子どもに主体的な学習をさせる教育観への転換もうたわれました。また、80年代から進められていた「ゆとり教育」の流れで週5日制が導入されたりしました。
 二つ目は、ネオリベラル(新自由主義)な改革の流れです。90年代後半になると、経済界が教育についても積極的に発言するようになっていきます。公教育のプライバタイゼーション(privatization)が主張されました。それは、民間手法の活用、民営化、私物化といった原理への改革です。学校選択制や、学校評価などです。
 2000年代に入って小泉政権になると、ネオリベラル(新自由主義)な改革が、官邸主導で進められるようになりました。90年代にはもっぱら経済の分野で進められていた改革の仕方は、2000年代になると、医療や福祉、保育や教育など、社会的諸制度の分野にも持ち込まれるようになりました。教育の分野でも、PDCAサイクル、民間人校長、教員評価の導入、株式会社立学校の許可といった改革が次々と行われていきました。

 

脈々と続いてきた道徳復活の野望

 三つ目は、保守主義的な教育改革論です。この流れが強くなったのは2000年代に入ってからですが、もともとこの系譜は、敗戦直後の占領期からずっと続いてきました。特に教育に関しては、戦後のGHQのもとで廃止された戦前・戦中の道徳教科「修身」を引き継ぐ旧来の価値観に基づく道徳を学校教育に復活させたいというのが、保守タカ派と右翼の長年の宿望でした。
 1958(昭和33)年に教科ではない位置づけで、「道徳の時間」が小学校・中学校で導入されたのが、その第一歩でした。小学校学習指導要領に「道徳的心情を高め、正邪善悪を判断する能力を養うように導く」といった表現が加えられたのは、このときです。
 しかしその後は、常に少数派ではあっても野党勢力が歯止めをかけ、保守的なイデオロギーによる道徳教育の強化案は実現を断念させられたり、修正を迫られたりしてきました。しかし、その均衡を大きく切り崩したのが、安倍政権です。

(P.84~P.85記事抜粋)

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