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道徳教育をゲームとしてデザインし直す(千葉大学教育学部教授 藤川大祐)

季刊『社会運動』2019年4月<434号>【特集:学校がゆがめる子どもの心ー「道徳」教科化の問題点】

 道徳の教科化についての懸念は多岐にわたる。しかし小学校ではすでに教科としてスタートしており、この4月、中学校でも授業が始まった。では、いま何をすればいいのか。少なくとも道徳の教材をチェックし、作り変えて授業のあり方を改善していくことは必要だろう。
 千葉大学教授の藤川大祐さんは、教材を新たに作ることによって、いまある道徳を改変していこうと考えている研究者だ。藤川さんに道徳の教材開発の考えを聞いてみた。

 

「考え、議論する道徳」の実現は難しい

 

 当初、道徳の教科化はいじめ防止対策として打ち出された。しかし、それだけで道徳の教科化を意義づけるのは困難と判断した文部科学省(文科省)は、その後、「考え、議論する道徳」へと方針転換した。「答えが一つではない道徳的な課題を、一人ひとりの児童(生徒)が自分自身の問題ととらえ、向き合うような『考え、議論する道徳』の推進は、いじめ防止にもつながる」としている。
 道徳教育やメディアリテラシーを研究する千葉大学の藤川大祐さんは、「いまの教材や授業では『考え、議論する道徳』の実現は難しい」と言う。道徳の教科書の一つひとつを課題整理し検証してみると、テキストの展開例が非常に画一的で考え方にバリエーションがないのだった。
 また、教科書を使った授業でも、テーマについて議論するどころか、登場人物の気持ちの読み取りが中心になっているものが多い。藤川さん曰く「親の小言レベル」の内容を聞く授業になっている。
 「そうはいっても、教科化された以上、教科化の前とは授業が変わらなければ意味がありません。それには道徳の授業の成功モデルを作るしかないと考えたのです」と藤川さんは言う。そして始めたのが独自の教材作りだった。様々な問題に関する報告・相談プラットホームを提供する企業であるストップイットジャパン株式会社などと提携し、道徳の授業で使う教材を開発している。その一つが、いじめに関する授業で使用する動画ソフトだ。
 まずは実際の授業を見ていこう。

 

動画教材を使った脱いじめ傍観者授業を見学

 

 君津市立八重原中学校(千葉県)を訪れ、藤川さんが監修・制作した動画による1年生の道徳授業を見学した。講師はストップイットジャパンから派遣された関谷紳吾さんである。
 まず生徒たちにこう説明する。
 「今日はいじめについて考えてもらいます。『いじめはだめだ』と説教するような授業ではなく、みなさんに考え、議論してもらう時間です。最初に映像を見てもらいますが、途中でワークシートに①か②か、選ぶ場面が出てきます。では見てください」
 スクリーンに「私たちの選択肢」という、中学校を舞台にした10分間の実写ドラマが流れる。ネットに松尾という男子生徒への悪口が書き込まれ、いじめがエスカレート。クラスの雰囲気は悪くなり、「やりすぎじゃないか」という反対意見の書き込みも無視される。主人公の光はネットでの悪口をやめさせるべきかどうか、悩んでいるというストーリーだ。
 ここで画面が一転、「教室でこの映像をご覧のみなさん」とナレーションが流れる。「光の今後の行動として二つの選択肢があります。展開①は、松尾に関する悪口をやめるよう書き込みをする。展開②は何もしない。自分だったらどちらを選びますか」。第三者としてドラマを見ていた生徒たちは、突如、自分たちが選択を問われ当事者の立場に立たされることになる。
 生徒にワークシートが配られる。どちらかの展開を選んだ理由を書き、周囲との意見交換を行う。

(P.138~P.140記事抜粋)

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