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02:薬にはやめどきがある-患者も医師も「医療=薬」に陥らないために(長尾クリニック院長・医師 長尾和宏)

季刊『社会運動』2019年7月【435号】特集:医薬品の裏側 クスリの飲み方を考える

 薬というのはもろ刃の剣で、上手に使えばいいのですが、不必要なのに飲んでいると害のほうが大きくなります。利益と害を天秤にかけて利益のほうが大きい時に使うのが薬だと思いますが、そういう天秤という概念がない、ずっと死ぬまで飲むのがベストだと考えるのは、非常に偏っていると思います。
 「やめどき」という言葉自体私が作ったもので、ようやくいま、薬にはやめどきがあるんじゃないかと気付き始めている医師が少し現れてきたところです。
しかし、全体としてみれば、多剤服用・多剤併用(ポリファーマシー)の患者さんが多いのが現状です。

 

─外国では日本のような問題はないということですが、中止基準やチェック機能はどのようになっていますか。

 

 海外では薬のやめどきに関する基準を医学会が作っています。例えば認知症の薬は、アメリカの老年医学会等が中心になって、MMSE(ミニメンタルステート検査)という認知症を診断する検査で、30点満点中10点以下になったら投薬をやめる、という中止基準を作っていました。
 また、フランスでは政府の諮問機関が、費用対効果を薬の発売後もチェックしています。日本は最初の試験さえクリアしたら、あとは製薬会社が「適応拡大」といって、適応する症状をいろいろな領域にどんどん広げていきます。適応拡大には厚生労働省の承認が必要ですが、発売後の薬をチェックする機関、体制が乏しいと思います。
 もっとひどいのがジェネリック医薬品です。ジェネリック医薬品は先行薬と成分が一緒というだけで、国は厳しいチェックをしていません。消化管の中での薬の溶けやすさ(溶出試験)について書類だけで審査しています。だから一流のメーカーのものは別ですが、効かないジェネリック医薬品がいっぱいあります。アメリカでは専門機関が、ジェネリック医薬品をチェックして品質のよいものだけを許可していますが、日本にはそういう機関はありません。
 国は、医療費抑制のため、財務省主導でジェネリック医薬品を奨励しています。ジェネリックの価格は先行薬の7割くらいなので、薬がもし全部ジェネリックになったら費用が3割削減できるからです。ちょっと話はそれますが、2018年10月から、生活保護の受給者に対してはジェネリック医薬品の使用が原則となりました。生活保護受給者はポリファーマシーの人が非常に多いのは事実ですが、国は医療費をどこから削るかというときに、こうした立場の人びとをターゲットにしました。こんな憲法違反、差別はありません。問題の本質を見誤っています。私はジェネリック誘導政策よりもポリファーマシー対策を優先すべきと何度も言っています。

(P.26~P.31記事抜粋)

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