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え~それないわ~韓国映画、救いなきラストについて(韓国語翻訳家・ライター 斎藤真理子)

季刊『社会運動』2019年7月【435号】特集:医薬品の裏側 クスリの飲み方を考える

「ツケモノイシが頭の上に載っているようなもの」


南北分断を、そう語ったシナリオライターの話

 

 厳しい現実を見つめるということ。容赦ないように思える現実を。そのような態度が、映像においても文章においても、韓国の作家たちの足腰を作っているのかもしれないと思うことは多い。
 今、日本で翻訳されている作家の多くは三十代、四十代で、特に女性が多い。彼女らは、日本の同世代たちとほとんど似たような生活文化の中で暮らし、同じようなサブカルを享受し、同じ洋楽を聴いたり同じ映画を見たりして成長してきている。そして同じようなアジアの家父長制に悩みながら暮らしている。だからその作品世界にはすーっと入っていける。
 けれども背景をよく見ると、そこには日本とは大きく違っていた父母の世代、祖父母の世代の体験が広がっている。
 韓国人にとって何よりも救いがなかった経験、絶望的だった体験はやはり、やっと植民地から脱し、第二次大戦を無傷で生き延びたのに、朝鮮戦争が起こって国が二つに分かれてしまったことだ。
 韓国の有名なシナリオライターの先生に、「それはツケモノイシが頭の上に載っているようなものなんだよ」と言われたことがある。「ツケモノイシ」という単語だけ、きれいな発音の日本語だった。南北分断とはそういうものだと。常に頭上がすっきりしないのだよと。この方も生まれ故郷は北で、十六歳のときに南に避難してきた。こうした人々を韓国では「失郷民」と呼ぶ。
 この方がシナリオを担当した映画の中に、『晩秋』という非常に有名なメロドラマがある(のちに日本の斉藤耕一監督が、岸惠子とショーケンこと萩原健一の二人で、『約束』というタイトルでリメイクした映画だ)。
 ところがこの名画のフィルムは今、韓国に存在していない。昔の韓国では、国内の映画館をひとわたり巡回したフィルムは香港などに売ることが多かったそうで、その過程で失われてしまったフィルムも多いのだとか。それなのに皮肉なことに、北朝鮮にそのフィルムが現存すると言われている。

(P.132~P.134記事抜粋)

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