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民主化運動―社会的公正を希求し続ける人びとの現代史 (立命館大学国際関係学部特任教授 文 京洙)

季刊『社会運動』2019年10月号【436号】特集:「平和の少女像」が示す希望 韓国と日本の歴史を直視する

保守、進歩とは何か


 文在寅政権(2017年〜)の説明に入る前に、ここで現在の韓国において保守や進歩とは何かを確認しましょう。
 文在寅は進歩派です。しかし進歩派=左派ではありません。韓国の右翼は、盧武鉉や文大統領を、北朝鮮に親和的な「従北」「親北」と批判しますが、私はちょっと違うと考えます。文大統領は就任直後のアメリカ訪問で、米海兵隊のある墓地を弔問しました。彼の両親は朝鮮戦争のときに、アメリカ軍に助けられて北朝鮮から南へ逃れた人たちです。だから、もしアメリカ軍が韓国を助けなかったら自分は存在しなかったと話しています。もちろん本音かどうかはわかりませんが、少なくとも政治的なスタンスは親米です。盧武鉉も、アメリカとの自由貿易協定を推進し、アメリカの要請に応じてイラクにも派兵しました。こういう人たちを左派とは言えません。韓国で左派といえるのは議席数が300議席中5議席を得ている「正義党」くらいです。
 進歩派を大きなくくりで言うと、社会的公正、民主主義、人権、平和という四つの価値を共有している人びとです。社会的公正とは、2016年のろうそくデモにおける最大の要求でした。平和とは、韓国と北朝鮮が当面、平和的に共存することです。社会的公正を目指す進歩派という大きな傘の下に、急進的な左派や中道左派、保守的な人もいるというように、様々な方向性を持った人たちがいるのです。
 保守派とか右派とは、実態としては、反共を名目にして、国家権力と結び付いて、私腹を肥やしたり、社会的ステイタスを向上させてきた勢力と言えます。いま、「積弊の清算」という掛け声のもとに、保守政権下での政界、警察、検察、情報機関、さらに司法の癒着や不正が次々と暴かれています。
 さらに全斗煥による新軍部の時代にほとんどの言論機関が「権力の僕」になってしまい、民主化以降も、依然として保守派言論は非常に大きな影響力を持ち続けています。ただ、朴槿恵の弾劾をめぐっては韓国の言論が、一部の保守言論を含めて大きな役割を果たしたと言えます。参与連帯が果たしたような権力へのチェック機能を果たした一部の言論も出てきました。
 民主化以後弱体化したとはいえ、社会のメインストリームは保守派が握ってきました。保守派を支持する人びとは、最近の世論調査によると30%前後。そのなかには、おそらく5%程度の極右の人たちもいるし、「合理的保守」といって韓国の伝統的な価値は守るが、権力と癒着して私腹を肥やすような保守はだめ、北朝鮮との平和的共存は支持すべきだと考える人たちも含まれています。
(P.73~P.74記事抜粋)

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