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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

5.取材現場からファクトに向き合う(ジャーナリスト 堀 潤)

季刊『社会運動』2020年1月【437号】特集:もうテレビは見ない-メディアの変質とつきあい方

─NHKを退職する決め手になったのは、何だったのでしょうか。


 自分が発信したいことへのスピード感ですね。NHKという大きな組織の中では、伝えたいことを発信するのにとても時間がかかります。9年前の東日本大震災の時、毎日「震災報道」をしたくても、それを実行するには決済が必要でした。番組放映にあたっては、「いまの時期にはふさわしくない」とか、様々な人たちの判断がかかわるので、随分と時間がかかるのです。すると、「震災から○年」だからとか、調整しやすいタイミングを計らざるをえません。
 また、SNS上で「堀さん、ここに取材に来てください」と声が上がっても、すぐに動くことができませんでした。その日は、国会の取材が入っているからとか、他の誰かに取材を頼みたくても既に役割が決まっているなど、フレキシブルに動けない。
 人びとの暮らしや営みの変化を、丁寧にファクトを集めて伝える作業は、大きな組織にいるとなかなかできません。おそらく、組織としてジャーナリズムに携わっている人は皆、このジレンマに向きあっていると思います。


NHK職員が内側から声をあげていい


─フリーのジャーナリストとして、いまのNHKをどのように評価しますか。


 NHK経営委員会の人事権の問題が大きいと思います。いまの経営委員は、政府から任命された財界人や有識者など、非常に政府に近い意見をもつ人で構成されています。そのメンバーの中から、NHKの会長が選ばれます。視聴者である私たちは、人事にタッチすることはできません。
 この構造の中で起きたのが、かんぽ生命の報道に関する「クローズアップ現代+」への抗議(65ページ参照)です。あの一件は、かんぽ生命の不正販売を扱った番組「クローズアップ現代+」に対し、日本郵政グループがNHK経営委員会にクレームを入れ、経営委員会がNHK会長を注意し、会長が日本郵政に謝罪した、という流れです。続編の番組は放送延期になったけれど、お蔵入りになる危機さえありました。本来なら、NHK職員は組織内部から抗議の声をあげてもいいと思います。韓国の公共放送であるKBSは、かつて朴槿恵政権から局側に圧力がかかった時、報道現場の職員がストライキを起こしました。だからNHK職員も、放送業界の一員として、ジャーナリズムを守るために、声をあげるべきだったと思います。


─堀さん自身は、政治権力の圧力を感じたことはありますか。


 個人的な圧力は感じません。しかし、マスメディアの中にいる者としては、常に政治権力からの圧力に接しています。僕がジャーナリストとして、最も政権と闘っていた時は、民主党政権でした。いまの安倍政権の前からです。だから、「枝野さん、よく言うな」と思う面もありますが、どんな人も権力者になるとメディアを自分の支配下に置きたいし、報道をコントロールしたがります。それが、メディアと権力の常です。
(P.97~P.98記事抜粋)

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