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3.「貧困専業主婦」という新たな格差(周 燕飛 労働政策研究・研修機構主任研究員)

季刊『社会運動』2020年4月【438号】特集:子どもの命を守る社会をつくる

専業主婦モデルが存在できる経済環境は既に失われている


─豊かだとイメージしていた専業主婦が、現実ではそうではなかった。どうしてそんなことになっていたのですか。


 豊かで幸せな専業主婦モデルが存在したのは、1990年代前期までではなかったでしょうか。
 かつて専業主婦は、日本の高度成長を支えた重要な存在でした。当時の日本経済を研究していたアメリカの経営学者であるジェイムズ・アベグレンは、著書『日本の経営』(1958年)で、終身雇用、年功序列賃金と企業別労働組合が日本的経営の「三種の神器」であることを発表しました。しかし、仮にアベグレン氏が当時、企業調査に止まらず、日本人の社会や家庭調査も同時に行っていたとしたら、専業主婦を、第四の神器にあげていたかもしれません。
 しかしいま、専業主婦モデルの下で個人と企業が相互利益を得られるような経済・雇用環境は、すでに過去の遺物になっています。
 バブル経済の崩壊をきっかけに、日本社会は90年代から、急速な少子高齢化、所得停滞と雇用不安に見舞われ始めます。アメリカの「大統領経済報告(2015年版)」によれば、日本は主要先進国のなかで唯一、労働者の平均所得(実質)が20年以上も後退し続けた国です。またJILPTが「賃金構造基本統計調査」を元に行った推計によると、大卒男性標準労働者の生涯賃金は、14年時点で2億6630万円となっており、ピーク時(1996〜97年)の8割程度に下落しています。
 15年時点で、夫婦と子ども2人の4人世帯における標準生計費は月額31万円程度です。標準生計費に税や社会保険料を加えると、専業主婦家庭ならば、夫は年間476万円の収入が必要です。ところが、「子育て世帯全国調査」によると、この基準をクリアしている男性世帯主は4割強しかありません。比較的若い年齢層で見ると、20代の夫では5人に1人、30代では3人に1人です。
 男性世帯主の稼ぐ力が低下している中で、専業主婦8人のうち1人が「貧困専業主婦」になっているわけです。
 これら貧困専業主婦世帯では、過去1年間にお金が足りなくて、家族が必要とする食料を買えないことが「よくあった」、または「時々あった」と回答した世帯の割合は、貧困専業主婦世帯で19・6%、5人に1人近くにのぼります。非貧困専業主婦世帯の約5・9倍です。

(P.31~P.32記事抜粋)

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