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3.レポート 親と一緒に暮らせない0歳から20歳までが暮らす地域の家として―生活クラブ風の村の施設紹介

季刊『社会運動』2020年4月【438号】特集:子どもの命を守る社会をつくる

親と一緒に暮らせない0歳から20歳までが暮らす地域の大きな家として

社会的養護を担う施設は国・県の認可事業として、公費で運営されている。社会福祉法人生活クラブ(生活クラブ風の村)が、千葉県君津市で運営している、乳児院、児童養護施設、自立援助ホームをそれぞれ紹介する。

乳児院「はぐくみの杜君津 赤ちゃんの家」


 乳児院とは児童福祉法第37条に定められた施設だ。保健上、安定した生活環境の確保が必要な乳児(0〜2歳)、その他の理由により特に必要のある場合には幼児(3〜5歳)を養育し、退居した後も相談や援助を行う。
 「助け合い、認め合い、労いあい、分かちあい」をモットーとする「はぐくみの杜君津 赤ちゃんの家」は、2017年に開所された。現在31人のスタッフが、15人の子どもの世話をする。入所理由は様々だが半数が病児・虚弱児、障がい児、被虐待児だという。
 赤ちゃんの家の養育方針は、穏やかで思いやりに満ちた家庭的な養育と、抱っこのぬくもりで愛着の絆を深めること。それが子どもたちの健やかな成長を保障すると考えている。建物の1階は、3カ月未満の乳児の部屋、1歳児の部屋、2歳児の部屋と三つの居住空間に分かれている。田園風景を臨む明るい窓際には、沐浴室がある。1歳児と2歳児の部屋の間に厨房が設置されているので、子どもたちは、スタッフの調理する姿を目の前で見、まな板の音や料理の匂いをじかに感じることができる。内装には木がふんだんに使われており、床はコルク、腰板には生活クラブ生協のエゴマを塗っているので、子どもたちがなめても心配はない。
 2階の面会室では、親の困りごとについて相談・支援を行う。指導ではなく一緒に考えることを重視する。里親とのマッチングも面会室で行う。フリースペースは、雨で外遊びができない時の遊び場になったり、絵本の修繕など「はぐくみの杜を支える会」のボランティア活動にも使われている。

児童養護施設「はぐくみの杜君津」


 児童養護施設は、児童福祉法第41条に定められた児童福祉施設の一つ。家庭による養育が困難な2歳からおおむね18歳の子どもが生活する、家庭に代わる家だ。子どもたちの幸せと心豊かで健やかな発達を保障し、自立を支援していく。
 「はぐくみの杜君津」(2013年開所)は定員40人の小規模グループホーム。現在は39人の子どもを、スタッフ38人が支援している。木のぬくもりに満ちた大きな一軒家が4棟建ち、六つのグループホームに分かれて家庭的な生活を送っている。
 ここでは「尊ばれ、癒され、育まれる」の理念のもと、一般家庭の雰囲気に近づけようと様々な工夫がなされている。子どもたちには個室が用意され、自由に過ごすことができる。毎日の食事や弁当は、スタッフが献立を考えて各棟のキッチンで手作りしている。「調理の音と匂い、食卓を囲んで過ごす団らんが子どもの心のエネルギーとなる」と施設長の髙橋克己さん。屋内が少しでも明るく感じられるよう、リビングは開放感のある吹き抜けだ。廊下の腰板や、玄関の下駄箱の扉が普通より厚めなのは、子どもたちが怒りのはけ口にして、壁に穴をあけたり、壊したりするので、そのための予防策とのことだ。
 同じ敷地内には他に二つの建物がある。一つは宿泊棟で、施設を出た子どもの里帰りや、自立に向けた一人暮らし体験に利用される1Kの帰休ホームと、親子で宿泊できる2Kの家族宿泊室。君津市から受託した子育て支援事業として、短期間子どもを預かる場合にも使われる。もう一つは母屋だ。事務室と、子どもたちのサークル活動やボランティア活動にも使われる地域交流スペースがある。
 「子どもたちは、地域の学校に通い、地域の公園で遊び、地域の行事に参加します。つまり、はぐくみの杜はごく普通の地域の家なのです。地域の大人に見守ってもらい、声をかけられることは、子どもたちにとって社会への安心感と希望になると思います」(髙橋さん)

自立援助ホーム「人力舎君津」


 自立援助ホームは、何らかの事情により家庭を出て、一人で生きていかざるをえなくなった15歳から原則20歳までの子どもたちが、就労しながら暮らす施設だ(注)。義務教育を終えたからといって、まだまだ自分の力だけで生きていく自信はない。お金も住むところもない。そんな子どもたちが一人立ちするまで見守り、支援するための児童自立生活援助事業として始まった。子どもたちはここから学校や職場に通う。
 人力舎では、スタッフ3人が交替しながら子どもたちと生活を共にする。居室は男女別の個室になっている。互いを尊重しあうこと、掃除、洗濯など、自分でやるべきことは自分でやるのが約束事。それが将来のために必要だからだ。食事はスタッフが作り、食堂兼居間の長いテーブルを囲んでみんなで一緒に食べる。書棚には漫画がびっしり。長押の上にはロック歌手の写真。ピアノやギターもあって、安心してくつろげる雰囲気だ。入り口の額には、こんな言葉が書かれている。「たった一言が人の心を傷つける。たった一言が人の心を暖める」
 彼ら彼女らの多くは虐待を受けて育ち、自分のために働いてくれる親ではなかったため、働くことや生きることへの意欲を持てない部分がある。だから、人力舎での生活は、働くことへのモチベーションを高め、自立への力を培っていくための拠り所になる。
 月3万円の寮費を支払うこと、将来の自立への準備として50〜60万円を目標に貯金することも、人 力舎の大切な約束事だ。
 困った時に相談できる場所が地域社会にもっと増える必要がある。


(注)大学生の場合は法改正により22歳まで、また公費は出ないが事情によって24歳まで居住できることもある。

地域や生活クラブ生協の組合員などによる「はぐくみの杜を支える会」の支援活動


 多くのボランティアを受け入れ、地域に開かれた施設であること、それがはぐくみの杜君津の特徴だ。
 NPO法人「はぐくみの杜を支える会」は、社会的養護が必要な子どもたちへの支援を目的に、2013年に設立された。生活クラブ生協千葉の組合員を中心に1300人以上の会員がいる。集まった会費は3施設の子どもたちのレクリエーション費用・小学生の塾代・高校生の携帯代などの生活支援に使われている。支援と並行して、同会に所属するボランティアのコーディネート、物品提供の募集と仲介、子どもたちの置かれた社会状況や実態を社会に向けて伝える啓発活動も行っている。
 設立時に公益財団法人ちばのWA地域づくり基金との連携で、「はばたき基金」という自立支援のためのファンドを立ち上げ、毎年寄付を募っている。運転免許などの資格取得の費用、一人暮らしの準備費用、入学金や進学後の生活費など、子どもたちを財政面でも支援している。
 家庭を頼ることができない子どもたちは高校卒業後、自立せざるをえないため、ほとんどの子どもが就職する。全高卒者の7割以上が大学や専門学校へ進学するなかで、養護施設の子どもは約3割。近年、国も給付型の奨学金など支援の拡大を決めたが、卒業後5年間仕事を続けないと返還を求められる。
 NPO法人はぐくみの杜を支える会の事務局長である荻野久美子さんはこう語る。
 「支える会の支援は貸付でなく給付です。ここ数年は企業に社会貢献が求められるようになり、児童養護施設出身者を対象とする奨学金など進学支援が充実しました。大学に行きやすくなったとはいえ、それでもまだ不十分で、厳しい生活が待ち受けていることに変わりはないのです。子どもたちが一人の人間として大切にされ、誇りを持って生きられる社会であってほしいと思います」
同会とは別に、地元の小糸地区の有志も「小糸ではぐくみの杜を支える会」をつくり、環境整備、掃除など直接的な施設への支援を行う。その他にも食材料などの寄付、学習支援や調理ボランティア、美容師など多くの方の協力がある。
 このように地域の大人たちが、様々な形で3施設の子どもたちにかかわり、見守っているのだ。地域社会に包まれて成長してきたことは、やがて巣立つ子どもたちにとって大きな心の支えになるに違いない。

(P.71~P.75記事抜粋)

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