生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

3.子どもを守るために対決を避けてはいけない(NPO法人POSSE代表理事 今野晴貴)

季刊『社会運動』2020年4月【438号】特集:子どもの命を守る社会をつくる

─子どもの貧困だけでなく、大人の貧困が止まりません。なぜでしょうか。

 貧困をひも解けば、大半は労働問題が原因です。大人の貧困問題が具体的に見えたのが10年前の「年越し派遣村」(注1)でした。この年越し派遣村は、連日マスコミが取り上げ、世間の共感も広がりました。それは、他人事と思えないという共感と、貧困問題は労働問題と結びついていることが可視化されたからだと思います。
 リーマンショック後、ますます非正規労働が拡大し、正社員の長時間労働は増え、余裕がなくなった人びとは他人の悲惨さに冷淡で無関心になっていきました。貧困問題に関しても、背後にある労働問題とは切り離されて、その人がダメだから貧困になった、と理解されています。労働者全体が貧困になっているのに、個人の事情にばかり目がいく。
 生活保護を受ける人の中には親に虐待された経験があったり、うつでなかなか働けない人も多いのです。こういった人たちを支援する側は、「当然、助けるべき」というつもりで動いているのに、「そいつの事情じゃないか、自己責任だろ」という非難の声が聞こえてくるのです。2000年代はそうしたなかで、貧困問題に取り組む人たちが立ちすくんでいる状況だったと思います。
 そうした時に東京都大田区の小さな八百屋さんが始めたのが、「子ども食堂」でした。子どもにとって、空腹を満たすのはもちろん、地域に支えられているという実感はかけがえのないものです。
 貧困問題の解決を、「子どもにご飯を食べさせることから始めよう」ということに、私はとても共感を持っています。ただし同時に、それだけでいいのかなとも感じました。子どもを助けるだけではダメで、やはり親の貧困をしっかり見据えることが必要です。子ども食堂が、親の労働問題解決のための社会制度づくりにつながればいいと思います。
 ご飯を食べさせるだけでは、子どもの貧困の原因を見えなくしてしまい、対策が進んでいきません。実際に、政府は「市民の共助」「助け合いが大事」と言って、子どもの貧困対策を市民に丸投げしようとしています。また、子どもにばかり焦点を当てることで、かえって「大人の貧困は自己責任」という風潮を強めることも危惧されます。

注1 2008年の大晦日から09年1月5日まで、厚生労働省前の日比谷公園の中にテントを張り、「年越し派遣村」として〝派遣切り〟された人たちを労働組合と労働弁護団などが受け入れた運動の名称。食事と眠る場所の提供だけでなく、医療や労働、生活の相談なども行われた。また、ホームレス支援ネットワークなどの実務家もかかわって、生活保護の受給や就労支援なども行った。

─貧困に関する状況について、いま、どう考えていますか。

 子どもがいる女性が「精神疾患で働けず、お金が全然ない」と、私たちが行っているNPO法人POSSEに相談に来ました。その女性には、日本最大手のフランチャイズ型学習塾の塾長をしている恋人がいました。ところが、二人は結婚できません。なぜなら、彼はものすごく残業をしているのに、月給が8万円と低過ぎるからです。彼の働かされ方は労働法に違反していました。でも、本人の意向で労働問題には触れずに、生活保護を受けることになりました。
 本来ならば、経営者と交渉して残業代の未払い分を払わせ、本人が仕事を続けるつもりなら法律を守った働き方にさせるように促します。でも残念ながら、このように職場で波風を立てることを躊躇する人がまだまだ多いのが現状です。
 こうしたこともあり、私たちは相談活動の入り口にもなる、「大人食堂」というのを宮城県仙台市でやっています。そこには、親も子どもと一緒に来られます。子どもの貧困の背景には親(大人)の貧困があります。また、子どもたちは成長して、やがて大人になります。大人の貧困、その最大の要因である、いくら働いても豊かになれない「ワーキングプア」の問題に目を向けなければ、子どもの貧困問題の解決は遠のくばかりだと考えています。

(P.118~P.120記事抜粋)

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