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3.「地球温暖化はウソ」と思っている方へ(国立環境研究所地球環境研究センター 副センター長 江守正多)

季刊『社会運動』2020年7月【439号】特集:いまなら間に合う!気候危機

「温暖化問題は論争状態にある」と思わせたい人々の存在


 それでも懐疑論者の中には「温暖化のデータは改ざんされて作られたものだ」という批判があります。これは2009年11月に、英国のイーストアングリア大学の電子メールが流出し、その内容から科学者の不正が疑われるスキャンダルに発展した、通称「クライメートゲート事件」のことを指しています。
 しかし事件の後、英国政府および大学の委託による三つの独立調査委員会が調査を行いましたが、どの委員会の報告書も、「科学的な不正は無かった」と結論づけました。当初、クライメートゲート事件を「データねつ造」の根拠として紹介した論者が、その後、この重要な結論にはほとんど触れない傾向があるのは興味深いことです。
 温暖化論争をフォローするうえでぜひ知っておくべきことは、欧米の産業界の一部の意を汲むといわれる、組織的に活動している温暖化懐疑論や否定論が存在することです。たとえば、『世界を騙しつづける科学者たち』(ナオミ・オレスケス、エリック・M・コンウェイ 著 楽工社2011)を参照して下さい。身も蓋もなくいえば、気候変動を抑制する政策を妨害するために、その基礎となる科学に対する不信感を人々に植え付ける効果を狙って意図的に展開されている言論活動があるのです。
 例えば、映画『不都合な真実』(デイビス・グッゲンハイム監督)でも紹介された「クーニー事件」では、石油業界のロビイスト出身者がブッシュ政権に雇われて、温暖化の科学に関する政府の文書を書き換えていたとされます。
 実際には不正は無かったクライメートゲート事件をスキャンダルとして騒ぐのであれば、クーニー事件をもっと問題視しなければおかしな話です。クライメートゲート事件で流出したメールの中で、気候研究者たちが批判者に対して攻撃的であり排他的であるように見えるのも、もとはといえば彼らが常日頃からこのような妨害活動の影響を受けて辟易し、腹に据えかねるほど憤っていたことが背景にあります。
 日本国内でこのような組織的な活動が存在するのかどうかは知りません。しかし、ネットなどで出回る欧米発の温暖化懐疑論の多くは、このような組織的な活動に由来する可能性が高いのです。そして、これらをせっせと「勉強」して国内に紹介してくださる「解説者」が少なくないため、その影響は国内にも大きく波及しています。
 本当は、このことを指摘するのはあまり気が進みませんでした。傍から見れば、「お前はインチキだ」「いや、そっちこそインチキだ」という泥仕合になってしまうからです。
 そして、この状況こそが、組織的な懐疑論・否定論活動の思うつぼなのです。彼らにとって科学的な議論に勝つ必要はありません。「温暖化問題は論争状態にある」と人々に思わせることができれば、彼らの目的は果たせるわけです。
 温暖化の科学の真偽をめぐって科学的な議論を深掘りすることはもちろん重要です。ただし、それが結果的に一部の政治勢力の片棒を担いでしまう可能性については、十分に自覚的でいて欲しいと思います。

(P.66~P.67記事抜粋)

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