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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

「当たり前」の家族制度が女性を縛っている

 

 住民基本台帳をもとに世帯ごとに支払われるこの給付金は、当初、様々な理由によって戸籍のない1万人以上の無戸籍者や、戸籍はあっても住民票がなく住所が特定できないホームレスには支給されないとされていた。
 「私は立憲民主党に所属していますが、無戸籍者も特別定額給付金を受けられるようDV問題や無戸籍者の権利保障に熱心な公明党、特に大口善徳衆議院議員の協力も得て、総務大臣と法務大臣にお願いしました。ホームレスやDVなどで親とは別にシェルターで暮らす未成年の少女たち、その支援者たちもそれぞれに声をあげ、結果的に同じ方向で暗黙のうちに連携することができたと思います。4月27日の基準日直前、補正予算が決まる2日前になって、無戸籍者にも給付されることが決まりました。戸籍がなくても出るのなら、住民票のないホームレスやシェルターで暮らす少女たちにも出せるでしょう。1、2日しか猶予がなかったため政治決断しかなく、ピンポイントで議員にお願いして、省庁に働きかけました」
 無戸籍者やホームレスの支援活動で信頼関係ができていた弁護士にも協力してもらい、交渉を行った。一番の問題になりうる虚偽の申請を防止する対策を示した上で、ようやく給付が可能になった。
 「支給には、総務省、法務省との交渉が必要でした。高市早苗総務大臣、森まさこ法務大臣が共に女性だったことも大きいと思います。もちろん性別だけが要因ではありませんし、与党議員とは意見がはっきり異なることも多々あります。それでも子どもを産む母親や女性の立場、働く女性としての実感などは男性より持っているのではないかと私は思っています。今回は自民党の松島みどり衆議院議員や、超党派の無戸籍議連会長の野田聖子衆議院議員からの後押しも大きかったと思います。国会内や政治判断できる大臣にもう少し女性が増えれば、無戸籍、DVなど女性の生きづらさを制度的に変える力になるのではないでしょうか」
 一方で、住民票のないホームレスへの支給が現場レベルで混乱するなど、課題も残る。
戸籍を通して社会基盤のシステム自体を見直そう、という運動をずっとやってきている井戸さんは、最後にこう締めくくる。
 「コロナの経験が、戦後日本の歩んできた社会の序列や差別の根源をくつがえすきっかけになればいいと思っています。このまま以前と変わらず違和感を持ちながら生きて行くのか、それともこれを機に制度を見直そうと動き出すかで、10年後、20年後の社会は変わります。今回の世帯給付で、当たり前だと思っていたことが実は女性を縛っていたと気づくと、次のアクションにもつながっていきます。多くの女性が違和感や不自由を体験したことは大事にしたほうがいいでしょう。一つひとつ実例をあげ、取り組んでいくことで社会は変わります」

(p.18-P.19 記事抜粋)

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