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3.スペインの社会的連帯経済の多様性(バレンシア在住・社会的連帯経済研究者 廣田 裕之)

<好評発売中>季刊『社会運動』2021年1月【441号】特集:コロナ禍の協同組合の価値 -社会的連帯経済への道-

スペインという国について

 

 まず、スペインという国を理解するための基礎知識からお話しします。スペインは、17の自治州と、アフリカ大陸にあるセウタ、メリーリャという二つの自治市で構成される国です。17の自治州は、それぞれ大幅な権限を持っています。
 そして、言語の違いもあります。スペイン語は全国で通じますが、それとは別に、カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語という三つの言葉が、それぞれの関連する州で公用語になっています。カタルーニャ語は、カタルーニャ、バレアレス、バレンシアの3州で、バスク語はバスクとナバラの両州で、そしてガリシア語はガリシア州で使われています。ほかにも、アストゥリアス語、アラゴン語、オキシタン語などがあります。。
 スペイン語、カタルーニャ語、ガリシア語は、いずれもローマ帝国の言語=ラテン語の子孫なので、お互いにかなり似ていますが(日本語の方言程度)、バスク語は違います。どのくらい隔たりがあるのかというと、スペイン語の話者にとっては、バスク語よりもインドのヒンディー語の方が近く感じられるほどです。日本でいうなら、共通語話者にとってのアイヌ語くらい難しいのです。

 

「社会的連帯経済」の概要

 

 スペイン全国の社会的連帯経済についてお話しする前に、社会的連帯経済とは何かを説明しておきましょう。
 社会的連帯経済とは、「社会的経済」と「連帯経済」という二つの概念を組み合わせたものです。
 社会的経済は、非資本主義的な組織(協同組合、NPO、財団、慈善団体)のことで、特にフランス、イタリア、スペインなどラテン系欧州諸国で伝統的に使われている概念です。基本的な判断基準は法人格ですが、一定の基準を満たせば、それ以外の団体も社会的経済と認められます。日本で言えば、JAや信用組合、労働金庫、商店街や社会福祉協議会、各種NPOや財団法人が、主な担い手です。
 連帯経済は、新自由主義的な経済体制に反対し、もっと公正で持続可能な世界をつくろうという社会運動から生まれた概念です。法人格に関係なく、「社会的連帯経済促進のための大陸間ネットワーク(RIPESS)」(注)の「連帯経済憲章」などでうたわれる、民主的自主運営や環境・ジェンダーへの配慮などの価値観を実践しているかどうかが大切です。一般の株式会社であっても、憲章を守った形の運営が行われていれば入れますが、協同組合やNPOであっても、憲章と相いれないような活動をしているところは、連帯経済とは認められません。1980年代以降、欧州に加え中南米で非常に盛んになっており、フェアトレードやマイクロクレジット、地域通貨、クリエイティブ・コモンズ(著作権フリーで使用可能な画像など各種著作物の総称)など、比較的最近登場した事例が目立つ傾向にあります。
 社会的経済は、50年以上の長い歴史の中で各国の社会体制の一つとして統合されており、世代交代の過程で政治的に保守化している団体も多くなっています。一方、連帯経済は、ここ数十年くらいの間にできた新興型の零細団体が多く、いまも創立メンバーが活動しているため、社会運動としての性格が強い。政治的にも左派革新系とつながる傾向があります。
 とはいえ、非資本主義的な経済を目指すという点は、社会的経済も連帯経済も同じですから、両者が協力し合うことも少なくありません。最近では、両者の歴史的な経緯を尊重したうえで、「社会的連帯経済促進のための大陸間ネットワーク」や、フランスで2014年に可決された「社会的連帯経済法」のように、両者をまとめて「社会的連帯経済」ということが、かなり一般的になってきています。

 

注 1997年にペルーの首都リマ市で社会的連帯経済関係者が世界的会議を行ったことを契機に立ち上がった、世界的なネットワーク。

(p.36-P.38 記事抜粋)

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