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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

6.持続可能な日本と地域社会ビジョン(國學院大學 研究開発推進機構客員教授 古沢 広祐)

<好評発売中>季刊『社会運動』2021年1月【441号】特集:コロナ禍の協同組合の価値 -社会的連帯経済への道-

FEC自給ネットワークの背景をなすグローバルな動きは新しい局面に

 

 SDGsという新しい時代の取り組みに関連して、ローカルな地域社会をどのように構築していくのか、経済評論家の内橋克人氏はFEC自給圏を提唱しています。FEC自給圏とは「食料(Food)」「エネルギー(Energy)」、そして「福祉(Care)」を柱にして地域が自立的に発展する、あるいはそれがより広がりネットワークを形成していく「人と人とが共生する経済への転換」をコンセプトにした考え方です。自給圏(地域自立)を基礎にネットワークを広げていく、これはSDGsの世界に向けた新しい重要な方向性を示しています。
 歴史の流れからみると、1960年代・70年代からの日本の高度成長期には、公害問題をはじめ地域の開発などで様々な問題が起こりました。それに対する問い直しとして「地域主義」(注1)という流れが出てきます。また戦後のGATT体制(「関税と貿易に関する一般協定」に象徴される自由貿易の推進を目指す体制)に代表されるグローバリゼーションが進展して、農業分野の貿易自由化に揺れたなかで、食料を地域自立の柱にしていこうという動きも出てきました。グローバル化の問題に対するローカルからの対抗的な動きです。例えばグローバリゼーションの中心地であるアメリカの地域におけるローカルな取り組みや、アジアやアフリカにおける農民運動がグローバルに抗して連帯していくような動きです。このような動きは88年の「食糧自立国際シンポジウム」(注2)に結集しました。まさに「グローカル」運動(地域を重視するローカル化・自治・分権化の動きと同時に、国際協力・連帯の強化)の先駆けでした。
 しかしその後もグローバル化は拡大し、同時多発テロや、世界金融危機が起こり、日本でも福島原発事故など矛盾が噴出しました。世界的に深刻な危機が続くなか、現在はさらに新型コロナウイルス感染症のパンデミックという大変な事態に陥っています。この事態を受けて、グローバル化の波は大きく揺らぎ、問い直され、ある意味では再編されるという新しい動きにいま直面しているのではないかと思います。

注1 「地域主義」は基本的には地域を重視する考え方で、多種多様な使われ方をしている。ここではエコロジーと自治・自立を重視する考え方(『地域主義の思想』玉野井芳郎著、農山漁村文化協会1979年など)を念頭においている。
注2 日本の市民運動(消費者団体・農業団体)の呼びかけで、アジアや欧米・アフリカの農民・運動家が集い「食糧自立を考える国際シンポジウム」(1988年8月、東京八王子セミナーハウス、参加者約500人)が開催された。食糧自立と地域の多様性こそが地球全体の安全保障につながるとの宣言を採択。参考:『現代農業・増刊号 食糧自立国際シンポ』農山漁村文化協会、1989年3月。または、http://data.blog-headline.jp/pdf/170307furusawa.pdf

 

コロナ後を見据えた社会づくりに必要な視点

 

 今後の動きについて言いますと、かなり悪い展開になるか、回復して現状維持となるか、これをテコにして従来システムが改革されるか、あるいは抜本的な社会の組み直しに至るか、四つのシナリオが考えられます。しかし現実にはこれらが交錯しながら動いていくことになるのだろうと思います。
 その際に、「自然・生命系における視点」「経済・社会・政治における視点」、そして「精神・文化的な視点」の三つの視点を意識していくことが重要です。
 今回の新型コロナウイルス感染症ですが、これはまさに「自然・生命系における視点」の重要性を示しています。人間は様々な生き物たちに支えられた存在です。21世紀に入って「ワンヘルス」(図1)という概念が提起されています。ウイルスという存在は、生物と生物の間を動き回って、その遺伝子が水平移動していきます。そして生物世界のなかで、じわじわと感染が広がり、やがて人間に及んできます。大半は無害で潜存するか、流出していきます。生物の生態系の仕組みや、それを大きく変動させる環境の変化などが、調和的関係を崩した結果、私たちの健康に影響を及ぼすというのが「ワンヘルス」の概念です。
 今回のような感染症の広がりの一つの要因として、過剰開発や気候変動のような問題も実は奥に隠れている。これは人間中心だけで物事をみる見方、世界観を根底的に問い直す視点です。人間社会は大きく自然から乖離しつつ、独自の展開・発展をしていますが、その土台こそが揺らいでいるのです。
 懸念されることは、今回のコロナ禍を受けて、感染者を追跡するようなアプリが広がるなど、近未来デジタル経済が急速に進み、統制・管理社会への流れも生じているということです。私たち人間自身がどういう社会のなかにこれから生きていくのか、効率重視の中央集権化へ向かうのか地域自立・分権型の社会へ向かうのか、大きな分かれ目にいます。
 大きなマクロ的な動きとしては、デジタル経済をだれが支配するかということにも注意が必要です。「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」という巨大IT企業に加えて、中国系の「BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)」などもポストコロナをめぐって新たなデジタル覇権を狙っています。さらに注目すべきことは、都市集中化から脱都市化へと社会のベクトルが変わりつつあるという流れです。
 今回、私たちの生活を支えている基本的な仕事として、エッセンシャル・ワークというものが注目されています。これはFEC自給とも関連しますが、その重要性を私たちの生活の柱としてどう組み立てていくかという点は大きなテーマです。特にグローバルな世界との相互関係のなかで、ローカルな動きとして自立・自治をどう組み立てていくか。ポストコロナの時代を見据えてそのような社会ビジョン、方向性をどう私たちは展望するのかが問われているということです。

 

食と農が示す新しい価値観

 

 その時に食とそれを支えている農の分野、もう少し広く捉えて一次産業分野が、地域の自立(自律)的な動きのコアになるだろうと思います。
 従来のような無限の経済成長を前提とする社会は、気候変動という限界、あるいは生き物たちの生態系の崩壊に直面しています。だからこそ持続可能な発展が必要だとされて、国連においてSDGsが提示されているわけです。しかし、これがなかなかギクシャクとしてうまく噛み合っていません。今回のパンデミックが象徴的ですが、全て人間中心でうまくいくかというと、そこには大きな歪みが生じるわけです。自然の生態系のなかで人間だけが我がもの顔に発展していくこと自体が、実は大きなリスクであることが今回のパンデミックでもはっきり示されたと思います。
 そこで生態系や様々な生き物たちとの関係をうまく組み立て直す必要があるわけですが、食というテーマのなかに、実は私たちが求めるべき世界観や価値観が明確に現れているのです。例えば食卓のレベルで言えば、ファストフード対スローフードのイメージです。人間中心で効率主義だけの社会を目指すのか、農場のレベルで言えば、巨大アグリビジネスによるモノカルチャー(単一・工業的農業による食料生産)か、地域社会に根づいた多様性に富む家族的な適性規模の農業なのか。どの様な世界を目指すのかが、改めて私たちに問われています。

(p.69-P.73 記事抜粋)

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