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市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

子どもの貧困に背を向けない(漫画家 さいき まこ)

季刊『社会運動』 2016年1月号【421号】特集:子ども食堂を作ろう!

子どもの貧困を描くことを決める

 


…… そのあと、2014年12月から『神様の背中』という、子どもの貧困に焦点をあてた5回の連載を開始されました。
なぜ、子どもの貧困を描くことに決めたのでしょうか。

 


一作目の『陽のあたる家』では、生活保護制度を正しく伝えることと、バッシングは理不尽であること、そして主人公に起きたことは誰の身にも起こり得る、ということを伝えるのが目的だったので、それほど多くの事例を集める必要がありませんでした。

 

 しかし、一作目を描いている時から、貧困問題は、貧困に陥る要因も影響の現れ方もさまざまだと感じていたので、そこをきちんと描かなければいけないと思っていました。そこで、大人のさまざまな事情がダイレクトに影響する「子どもの貧困」をテーマにしたのです。一例だけ取り上げれば済む問題ではないので、できる限り自分の足で歩き回って、さまざまな事例を肌で知る必要がありました。でも、困難の渦中にいる当事者は、なかなか自分から話をしてはくれません。困難があまりにも重なりすぎて、言葉にできないという事情もあります。そういう意味で当事者から話を聞くというのはとても難しいことでした。

 

 支援者を訪ねていった時に、いきなり「誰かを紹介してください」とお願いするのも失礼な話なので、会合や支援の場などにまめに顔を出していくしかありません。その場に足繁く通って、ようやく話を聞かせてくれる人に出会えるかどうか、という感じでした。

 


…… 読者からの感想はいかがですか。


おかげさまでおおむね好評です。「支援の現場から見ても非常にリアルだ」、「貧困に対するネガティブな感情を描いた部分に深みがある」、「泣いた。厳しい現実を知った」、「子どもからのメッセージに耳を傾けていきたいと
思った」などの感想をいただいています。

 


子どもの問題行動の背景を
想像してほしい

 

 

…… 先ほど、さいきさんは、子どもの貧困の現れ方はさまざまだと言われました。漫画の中ではいくつかのエピソードとして描かれていましたが、そこで伝えたかったことをお話しいただけますか。

 


 小学生の男の子がコンビニでおにぎりを万引きする現場に、その子の担任である臨時採用教師の主人公が居合わせる、というシーンを描きました。男の子の家庭は貧困状態で、まともに食事を与えられていなかった。でも、そんな事情を知らなかったら、ただの非行としてしか捉えられません。子どもの問題行動の裏には常に何らかの事情があり、その一つに貧困がある、ということを伝えたかった。また、母子家庭の女の子の話では、アルコール依存の母親が、教師との面談の約束を破っては男と遊び歩くという状況を描きました。でもそれは、元夫からのDVや両親からの虐待の後遺症のせいだった。これも、どうしようもない人に見えても「その裏には事情がある」という例です。


 漫画の中でも触れたように、学校も課題をいろいろ抱えていて、先生は毎日忙しすぎてなかなか一人ひとりの子どもに向き合う余裕がありません。スクールソーシャルワーカー(注3)を早急に全学区に配置するなどの必要があると思います。

 

 その一方で、教員にも困窮している人への偏見がある場合があります。たとえば、給食費を滞納しているのに親子でゲームセンターに行っていた、という場合、「本当は払えるはずなのに、モラルの欠如したどうしようもない親だ」と。でも、そこで思考を止めず、モラルの欠如の裏に事情があるのでは… と想像してみる必要があると思います。

 

 また、主人公は「子どものためなら自分は何だってできる」と思っていて、それができない親を「なぜできないの?」と責めます。けれど自分が苦境に陥ったとき初めて「したくてもできない状況がある」と気づいた。自分ができることは、誰でも同じようにできるはず、と考えるのは思い上がりです。そういうことが伝わってくれれば… と思います。

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