生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

地域を変える 子どもが変わる 未来が変わる!(NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 理事長 栗林 知絵子)

季刊『社会運動』 2016年1月号【421号】特集:子ども食堂を作ろう!

子どもの居場所は地域しかない


 ある女の子のお母さんは、離婚して一人で子育てをしながら一生懸命仕事をして、子どもが小学校に通い始めてホッとする間もなく不登校になりました。しかし子どもが不登校で家にいたら仕事にいけないので、首根っこをつかんで学校に行かせていたそうです。でも、女の子は辛くてもう学校に行きたくない。ある日、彼女がランドセルを背負ったまま、団地の最上階をフラフラしていたところを、8階に住んでいる人が声をかけて、家まで連れて帰ってくれた。お母さんはその日、いつものように仕事から帰ってきたのに娘が一言も口をきかない。ところが、夜中に起きて突然泣き出したんだそうです。「どうしたの? 何があったの?」と聞いたら、「私は今日、死のうと思った。だけど団地のおばちゃんが声をかけてくれた」と話したそうです。この子からもう目が離せないと、翌日からお母さんは仕事に行けなくなりました。彼女も赤ちゃんみたいにお母さんの後追いをするようになり、二人は家から出られなくなってしまいました。このように孤立していくんです。一人親家庭の方に話を聞くと、みんな、外からは見えないストーリーがあります。彼女たちは、それで暮らしが立ち行かなくなり生活保護を利用するようになりました。それでもこのお母さんには、自ら相談したり、インターネットで支援団体につながる力があったので、子ども食堂の情報を届けることができたのです。彼女の住まいのすぐ近くに子ども食堂を作るので、ぜひ来てと、私は何度も誘いました。
 この不登校の女の子は昼の時間に、子ども食堂の食事作りも手伝うことになりました。ボランティアのおばちゃんたちに「キュウリが上手に切れたわね」、「ニンジンはこう切るんだよ」、コロッケを並べた上にケチャップをかけると、「ケチャップでハートがかわいく描けているね」などと言われているうちに、彼女はみるみる元気になり、今は中学校へ普通に通っています。そしてお母さんは生活保護から自立して、今は納税者になっているんです。私が彼女から学んだことは、人がつながることによって、愚痴を吐き出せたりして、いろんなことを自分で気づき自立していくということです。子どもにとって、そのつながりをつくれるのは地域しかないと思います。子どもの生活範囲には、学校や保育園と家、そして地域しかないからです。
 だから私たちは地域の子どもの居場所づくりに取り組んでいるのです。地域しか居場所がない子どもたちが、そこで親でもない、先生でもない、重要な他者につながる。子どもとつながることで結果的に親にもつながり、親が抱えている借金などの問題が見えてきたら支援できます。
 先ほどの男の子のお母さんにつながるまでにも私は何度も電話をし、手紙を書きました。そこまでこっちが立ち入って、ようやくつながるんです。男の子のお母さんは、「あの時は本当に大変で、もう周りが見えなくて相談する気力もなくなっていた。そこに栗林さんがあえて立ち入ってくれたのでつながることができた」と言っています。孤立している方はみんなそうなのではないでしょうか。地域の人や資源とつながっている人は、「なんでそんなことができないの。相談の電話をするだけなのに」と思うでしょうが、本当に追い詰められると、人は誰にも何も言えなくなるということを、彼女たちから学びました。だからお節介が大事なんです。お節介はすごく無神経にも取れますが、断られても、断られても電話するのは、「あなたのことを忘れていないよ」というメッセージです。

16010301

インターネット購入