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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

キートスの子ども食堂(青少年の居場所Kiitos)

季刊『社会運動』 2016年1月号【421号】特集:子ども食堂を作ろう!

親の愛情を感じたことがなかった


 白旗さんは「愛情をもって接してくれる大人がいて温かな食事があって友だちとの会話を楽しんで過ごす。それだけで子どもは変わっていきます」と日常生活の基本を身につけることの大切さを指摘する。
「キートスで育った」と話す22歳の若者も7年前に児童相談所から紹介されて来た。両親と年の離れたきょうだいがいるが、だれからも顧みられずに思春期を過ごした。困窮はしていないが母親が毎晩のように大酒を飲んでは意味もなく「死ね!」と暴言を浴びせ、父親もそれを諫めなかった。「親の愛情を感じたことがなかった」という。保育園や幼稚園に通わせてもらえず、毎日近くの公園で自分と同じような境遇の姉弟と3人で遊んでいた。そのため小学校では顔なじみの友だちもなく、服装や不衛生をからかわれ、低学年で不登校になった。中学校でもいじめを受けて学校には通えなかった。
「家にも学校にも居場所はなく、『どうして愛されないんだろう、どうして必要とされないんだろう』、寂しさから『死んでしまいたい』とずっと思っていました」
 中学3年生になったころ、母親の暴言に耐えかねて「死んでやる!」と包丁を手にしたところ、自分に向けられたと勘違いした母親が警察に通報した。一時保護された児童相談所から、児童養護施設に預けられた。高校中退も二度。養護施設にいるときにキートスと出会った。
「ここには他のどこにも感じたことのない安らぎがありました。スタッフみんながごく普通に『ご飯食べた?』とか『勉強してみる?』と声を掛けてくれるので、人と接することが苦にならなくなりました。本気で話したいときは真正面から受け止めてもらえるし、そうやってここで育ってきた気がします。
 年下の子が大人には言えないことを話してくれるので、自分はそれをスタッフにつなげる重要なポジションにいると思える。ここは22歳の利用者である自分にできることがある『家』です」
 飲食店でアルバイトをしながら一人で暮らし、時間を作ってキートスに足を運ぶ。学力に引け目を感じることもあるが、時間的にも経済的にも余裕はなく、本当に勉強したいという意欲もまだわいてこない。「不登校から頑張って大学受験を目指す後輩もいる。その姿を目の当たりにすることが自分の支えにもなっている」と今の心境を語る。

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