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市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

2.低所得者に冷たい日本の税・社会保障制度(東京大学名誉教授 大沢真理)

<好評発売中>季刊『社会運動』2021年4月【442号】特集:自助・共助・公助と生活クラブ

日本の現役世代の貧困はOECD諸国でもっとも深刻

 

 日本の貧困率(貧困者が人口に占める比率)は、経済協力開発機構(OECD)諸国でも高い部類にあることは、すでに知られています。本来ならば税・社会保障制度が機能することで、所得再分配を通じて貧困や不平等が緩和されるはずですが、日本ではそうなっていません。
 世帯主が18歳以上で、65歳未満の世帯の人口を労働者人口と呼びますが、その人口について、所得再分配による貧困削減率の推移を数カ国について示したものが【図1】です。

※貧困削減率=政府による所得再分配の前と後で、貧困率がどれくらい下がったかを示す指標。

 1985年では、日本の貧困削減率はマイナス1%。これは、政府が所得再分配をすることで、わずかであれ貧困率が高くなったことを示しています。その後、削減率は上昇しましたが、30%を超えておらず、OECD諸国の中では屈指の低さです。さらに東京都立大学・阿部彩教授らによる詳しい人口区分の検証で、働く一人親世帯、共稼ぎ世帯の貧困削減率がマイナスであることもわかってきました。
 日本政府は、2015年9月にSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標で、17のグローバル目標と169のターゲット=達成基準からなる)を採択しています。最大のグローバル目標とされる第一目標(SDG1)は、「貧困の撲滅」。そのうちのターゲット2では低所得国、高所得国を問わず、2030年までに「国内定義の貧困率を少なくとも半減させる」ことを求めています。
 つまり、日本がSDGsを採択した時点で、貧困を解消し格差を是正することは、国家目標になっているのです。しかし、政府の取り組みを見ると、SDG1にかかわるのは子どもの貧困への対策のみで、しかも貧困削減の数値目標は掲げられていません。

 

働いても貧しい。働くほど貧しい

 

 次に、働いて稼ぐことと貧困の関係を探るため、子どもがいる世帯で、成人の人数と就業状態別に、貧困率を【図2】で見てみます。
 子どもがいる世帯で「成人1人で就業」というのは、主に働くシングルマザーを指しています。日本の働くシングルマザー(とその子ども)の貧困率は、56・0%と、OECD諸国+中国・インドのなかで最悪。日本とインドでのみ、働くシングルマザーの数値が、無業のシングルマザーの数値よりも高いことが分かります。
 また、右側2本の棒グラフが示すように、日本では、片稼ぎ夫婦の貧困率と、共稼ぎ夫婦の貧困率との差がわずかしかなく、OECD諸国で最小です。世帯で2人目の稼ぎ手(多くは女性)がいることは、他の国では貧困リスクを大きく低減させますが、日本での効果はわずかということです。
 つまり日本の貧困層は、働かないから貧しいのではなく、働いても共稼ぎでも貧しい。むしろ、働くほど貧しくなるのが特徴といえるでしょう。その原因が、女性の収入が低いことにあるのは明らかですが、政府による所得再分配が、子育て世帯や共稼ぎ世帯の貧困を深めていることも見逃せません。
 感染症が蔓延するいまの状況に例えるなら、サイトカインストーム(免疫細胞の過剰な防衛反応)を起こしているようなものです。命を守るはずの免疫機能(税・社会保障制度)が、逆に致命的な症状を引き起こしている。サイトカインストームは激烈ですけれど、日本の税・社会保障制度の逆機能というのも、着実に恵まれない人たちの首を絞めているのです。

 

税制と社会保障制度は表裏一体の関係

 

 税制を抜きにして、社会保障制度は語れません。いかに財源を調達し、その財源で社会保障の給付を行っていくかということですから、両者は表裏一体の問題です。
 税・社会保障制度の機能には、いずれの国でも極端な貧困を防止すること、豊かでお金が有り余っている人から、苦しい人への所得の再分配を行うことが盛り込まれています。
 個人所得税に累進性があることから見ても、税制のなかに、格差を是正する機能が見込まれています。

※累進性=数量の増加に従い比率が増すことで、「累進課税」とは、課税対象所得が増えるほど、より高い税率を課する課税方式のこと。累進の反対語は「逆進」。

 社会保障は、何かにつまづいて困ってしまったときに、サービスや現金給付が受けられる制度ですから、これも貧困を是正し不平等・格差を是正するという機能が見込まれているわけです。ところが、現在の日本では、その機能は著しく低下しています。

(p.82-P.85 記事抜粋)

 

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