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言葉が際立つ夢を何度か見ている(韓国語翻訳家 斎藤 真理子)

<好評発売中>季刊『社会運動』2021年4月【442号】特集:自助・共助・公助と生活クラブ

 言葉が出てくる夢、言葉が際立つ夢というものがある。
 高校生のとき、シャンソン歌手のエディット・ピアフが出てくる夢を見た。
映画『エディット・ピアフ物語』がテレビで放映され、それを見てようやくピアフの顔と有名な歌が一致したのだったと思う。
 パイプ椅子が並ぶ洒落っ気のない会場で、サロンコンサートのようなイベントが開かれていた。ピアフが入ってきて、しゃがれ声で「sensibleな紳士の皆さんと、sensitiveな女性の皆さんのために歌います」と言って歌いはじめた(何を歌ってくれたかは全然覚えていない)。
 これは相当に受験知識の混ざった夢である。当時の私はそれなりに熱心に英語を勉強していたので、senseから生まれた二つの派生語の違いを、参考書か何かで見ていたのだろう。辞書的には、sensibleは「賢明な、思慮分別のある」という意味、sensitiveは「敏感な、傷つきやすい」という意味だそうだから、ずいぶんジェンダーバイアスがかかっているが、時代のせいだな。
 だが、それと同じ日か翌日か、もっと後だったのか覚えていないが、もう一度ピアフが夢に出てきて英語を教えてくれた。今度は観衆全員ではなくて、私一人に教えてくれたのだ。
 会場はやはり前と同じで、椅子の列と列の通路をピアフが歩いてきて、私のそばに立ち止まると手をとった。そして私の手のひらに指でスペルを書きながら、「heartinessですよ」と言ったのだ。この「ですよ」は日本語だったので、ピアフは英語と日本語ができるということになる。
 それは、「heartinessが大事なんですよ」というニュアンスに聞こえた。そして、heartinessは初耳の単語だった。なぜかというと当時、辞書で一度でも引いた単語には赤鉛筆でアンダーラインを引くことを習慣づけていたからで、この夢を見て飛び起きてすぐに辞書を確かめたところ、heartinessに線は引かれていなかったのだ。
 そして意味のところには、「誠実さ」と書いてあった。
 やられた。
 うわあああ、と私は思った。ピアフが私に、誠実でありなさいと言っている。こういうのを「お告げ」というのだ。私はいずれ大学受験をするわけだが、もしどこかの大学の試験問題にheartinessという単語が出たら、私はその学校に行く運命だということだな。そして、そこへ行ったら何らかのミッションが私を待っているに違いない。sensibleとsensitiveはともかく、hearthinessはピアフによって初めて知った単語なんだから、ピアフが私を指名して教えてくれたんだから。
 やがて大学受験の季節となったが、heartinessという単語はどこの入試にも出てこなかった。その後大人になってから受けた少数の試験にも出てこなくて、私はミッションに出会えなかった。

(p.122-P.124 記事抜粋)

 

 

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