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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

 秋田県にかほ市象潟で、80余年の歴史を誇る、伊藤製麺所。創業以来の看板商品「きさかたうどん」は、のど越しのよさと、やさしい口当たりが特徴の乾麺で、地域の誰もが知るソウルフードだ。ところが、3代目社長の伊藤実さんは長い間、家業が好きになれなかったという。

 

嫌いだった故郷のソウルフードに衝撃を受けた

 

 「子どものころは、自営業なんてかっこ悪いと思っていましたし、(乾麺を製造する工程で)うどんを天日で干している様子を友だちから『お前んちは、うどんをカーテンにしてるのか』とからかわれたりして、ますますうどんが嫌いになって(笑)。当然、家業を継ぐ気もなく、山形県の大学を卒業した後、家業とは無関係の会社に就職しました」
 しかし、実家を離れて数年後、ふと「きさかたうどん」食べてみたところ、そのおいしさに驚いた。
 「衝撃的でした。祖父や父は、こんなにすごいうどんを作っていたのだと。この味を絶やしてはいけない、家に帰ろうと思いました。家業を継ぐと決めたのは、25歳のときです」
 それから20年以上たったいまも、伊藤さんは伝統の味を大切に守り続けている。
 「昔ながらの製法で作る『きさかたうどん』は、鳥海山の伏流水を使って打ち、長期熟成させることで、ツルツルとした喉ごしと、独特のコシや噛み応えを生み出しています。祖父の代までは、天日で自然乾燥させていましたが、現在は、天候に左右されずに安定して生産できる、衛生環境も整った工場があります」
 にかほ市の〝特産品〟とされることも多い「きさかたうどん」だが、伊藤さんは、そう称されることにやや違和感があったという。
 「地粉を使っているわけでもなく、特産品というにはちょっと弱いのではないかと。せっかくなら地元の素材を使って製品化し、長年お世話になってきた地元の人たちの役に立ちたいと考えていました。農家さんにも相談したのですが、沿岸部に位置するにかほ市で、小麦を一定量作るのは難しいと。あきらめかけていたところ、特産の真鱈で作るしょっつる(魚醤)をブランド化しようという話があり、ならばそれでラーメンのスープや、めんつゆができるのではないかと醤油屋さんに相談。やっと出来上がったのが『タラーメン(塩味)』です」
 うどんと同じく長期熟成させた中華麺に、旨みが豊かでくさみのない、鱈しょっつるのスープを合わせた「タラーメン」は、特産品の名にふさわしい品となった。

 

組合員との共同開発で生まれた「タラーメン醤油味」

 

 2012年に稼働を開始した、首都圏の四つの生活クラブ生協(東京・神奈川・埼玉・千葉)による「生活クラブ風車・夢風」(46ページ地図④参照)。その計画段階から始まった地元での交流活動のなかで、組合員の工場見学などに対応していたのが伊藤さんだった。

(p.74-P.76 記事抜粋)

 

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