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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

①気候危機の解決には脱成長・ポスト資本主義への転換が不可欠(ピープルズ・プラン研究所運営委員 白川真澄)

季刊『社会運動』2021年10月発行【444号】特集:再生可能エネルギー――気候危機と生活クラブ

第1部 ブレーキがなく、アクセルしかない資本主義では気候危機は解決しない

 

気候危機の根本的な解決に向けて、高まる資本主義への批判と懐疑

 

─斎藤幸平さん(注1)やグレタ・トゥーンベリさん(注2)などの若い世代は、「深刻化する気候危機を解決するためには、資本主義そのものを変えることが必要だ」という意見を強めています。

 「気候危機の解決には脱成長のポスト資本主義に転換しなければならない」と斎藤さんは書いています(『人新世の「資本論」』)。グレタさんも「利益と経済成長ばかりを追い求める、いまのシステムを変えるべきだ」と主張しています。私も同じ立場です。
 斎藤さんの主張の新鮮さは、「グリーンな経済成長(注3)やグリーン・ニューディール(注4)では、気候危機の解決は困難である。資本主義そのものへの正面切った挑戦が必要だ」と提起している点です。しかも「従来の脱成長論(注5)も、資本主義の枠内に留まっている」と批判しています。
 斎藤さんの本が30万部以上も売れたのは、日本でもいまの経済や社会の仕組みに問題があると考え、資本主義そのものに不信を感じる人が少しずつであれ増えているからでしょう。

 

─経済の成長・拡大が止まったら、社会はどうなりますか。

 

 コロナ禍の中で多くの人たちが、生活に本当に必要なものは何か、改めて気がついたのではないでしょうか。外に出ないわけですから、外出着やスーツはいらない。必要もないのになぜ何着も持っていたのだろうと考える。航空機が飛ばなくなるとCO?の排出も減るし、航空機に乗らなくても車で遠出しなくても、生活できるのだと身をもって知ったわけです。このことが生活様式を転換する大きなきっかけになってほしいと思います。
 成長・拡大が止まることは、資本主義にとって「死」を意味します。先進国では、移民に頼る米国を例外として、労働人口が減少に転じていて低成長に移らざるをえなくなっています。中国も、これから労働人口が減少しますから、間違いなく経済成長率は下がります。ゼロ成長に近づくことは、資本主義にとっての脅威です。水野和夫さん(注7)も、成長ができなくなり利子率(利潤率)がゼロに近づいていることで「資本主義は終わりを迎えている」と言っています。
 地球の資源は有限ですから、無限の成長・利潤を追求する資本主義とぶつかるのは必然です。その意味でも、資本主義からの脱却は避けられません。ただし資本主義が「自然死」することはありえません。不必要なモノやサービスを新しく作りだし、情報や金融の仮想空間を肥大させながら成長を追い求めようとするでしょう。したがって資本主義を変革できるかどうかは私たちの生き方と社会運動にかかっています。企業による脱炭素化の試みは大事です。しかしそこで立ち止まることなく、成長・拡大型の生産・生活様式、つまり資本主義のシステムをどうするのかという問題に、真正面から議論し、取り組まなければいけない時だと思います。

 

第2部 「脱成長社会」は可能か

 

利潤と経済成長を無制限に追い求める資本主義に対し、脱成長のポスト資本主義とはどんな社会か
─これまでの社会主義・共産主義との違いはどこにあるのでしょうか。

 

 斎藤幸平さんは、資本主義を超えて「脱成長コミュニズム」へ、と主張しています。20世紀には、資本主義を超えるためには、企業の所有する工場などの生産手段を全て国家の所有に移せばよいという考えに基づき、ソ連や中国のような社会主義国家が誕生しました。しかし、生産手段の国家的所有によって官僚が全権を握る独裁的な政治体制が生まれてしまいました。経済成長のために経済資源を国家に集中したソ連の計画経済は失敗して1991年に崩壊し、中国は経済成長のために市場経済を取り入れましたが、いまも共産党の一党支配下で人権抑圧が続いています。
 資本主義の暴走を放置しておくと、気候危機のような取り返しのつかない問題を制御できないことは、前章でお話ししました。それではソ連や中国とは違った方法で資本主義を乗り越えるにはどうしたらよいのでしょうか。資本主義の特徴は「利潤を最大化する」ことにあり、そのためにありとあらゆるモノを商品化します。人が生産するモノだけでなく水や森や土地といった自然、目に見えない情報や知識まで、価格をつけて商品として取引することで利潤を上げようとするのです。

(p.141-P.148 記事抜粋)

 

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