生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

人類は、従来の経済成長がない方が生き残れる

 

明治学院大学名誉教授 勝俣 誠

 

 かつて西アフリカの大学にいた時のことである。ワープロのない時代で手書きのテキストをタイプライターで打ってもらおうとアフリカ人の事務スタッフにお願いする際、アフリカ人の同僚は、お礼に「払う(フランス語でpayer, 英語でpay)」という表現は使わない方がいい、と言った。
 お礼は「お子さんにお菓子でも買ってあげてください」と言って渡すのだ、ということであった。また、サハラ沙漠からの砂でまみれていた一軒家の官舎の水掃除を近所の主婦にたまたま一回頼んだら、以降、その家族の病気の治療費など乞う訪問がよくあった。現代世界では他者に依頼するサービスは賃金と雇用という金銭関係でしがらみなく実現ないし購入できるが、顔の見える社会内ではお金でサービスを「払ったり」、「雇ったり」することの難しさを感じた。
 今回、『社会運動』という私自身、創刊以来学ばせてもらってきた媒体に、『なぜ、脱成長なのか』の書評を書くにあたり、特に関心があったのは現代世界でごく当たり前の働き方となっている「賃金労働」をこの本ではどう位置付けているかという問であった。
 換言すれば、誰も賃金の対価として雇わず、誰も賃金によって雇われない働き方は可能だろうかという問である。「脱成長」というコトバに惹かれるのは、今よりも便利になるとか快適になるという商品に囲まれながら、みながとにかく忙しくなり、誰かが誰かをどこかでいつも働かすからである。

(p.158 記事抜粋)

 

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